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番外編 鞠家さんの正体
ここでは目立つからと、伊澤さんに駅の地下街にある居酒屋さんに連れていかれた。
「九鬼総業の連中が真っ昼間からうろついているからな。ここは知り合いがやっている店だ。夜しか営業してないし日中は誰も来ない。万が一九鬼総業の連中が押し掛けてきても裏口から出ればすぐに外に通じる非常用階段がある。お湯はカウンターに準備してある。赤ん坊にミルクを飲ませるときは遠慮なく使え。あとオムツ交換と授乳も必要だろう。その時は奥の座敷を使え」
「伊澤さん、あの……」
「こう見えても孫が五人いる。非番の時は孫の子守りが俺の仕事だ。だから気にするな。お前さんに何かあったら30年来の心友でもある播本と卯月にぶっ殺されるからな。あと、縣と秦、それに度会にもな」
ゲラゲラと伊澤さんが笑った。
娘さんからお昼寝用の布団一式わざわざ借りてきてくれたみたいで、そこに太惺と心望をそっと寝かせた。
「寒くねぇか?」
太惺と心望を見詰める伊澤さんの目はとても優しかった。
お義父さんの家で見せていた顔とは真逆で面喰らってしまった。
「沙智ごめんな」
開口一番深々と頭を下げる鞠家さん。
「兄貴ね………多分知ってた。貴方がサツということ。それでも茶番に付き合った。マーと子供達守るため」
「沙智…………」
今度は鞠家さんが驚く番だった。
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