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番外編 鞠家さんの正体

「…………鞠家さん…………」 まさかまさかの予想もしていなかった展開に、目をパチパチしながら、腰を抜かすくらい驚いた。沙智さんも吃驚していた。 「通路を塞ぐな、乗り降りする他の乗客に迷惑だろう。聞こえないのかお前ら」 鞠家さんがあっという間に男達を蹴散らしてくれた。 「ま……」 鞠家さんに声を掛けようとしたら後ろの扉がすっと静かに開いた。 沙智さんが素早く何かに気付き、鞠家さんを哀しげに見詰めた。 「何で………?」 沙智さんの問い掛けに鞠家さんは答えなかった。 「度会沙智………否、琥珀、事情を聞かせて貰おうか」 ホームで待ち構えていたのは九鬼総業じゃなくて、マル暴の伊澤さんだった。 「鞠家、お前、未知をどうする気だ!」 彼が駆け付けてくれたけれど、彼の指先が触れる前に、鞠家さんに腕をむんずと掴まれ、沙智さんと共に外に引き摺り出された。 その直後。発車のベルがホームに鳴り響き無情にも扉が閉まり、彼と子供達を乗せた新幹線が何事もなかったように発車した。 時間にして僅か数秒。あっという間の出来事だった。 「成宮の悪事をすべて公にするため、裏で繋がっている政財界の連中とアジトの場所を教えてくれ。お前はむしろ被害者だ、正直に話してくれたら見逃してやる」 「嘘だ」 太惺を腕に抱き締めブンブンと首を横に振る沙智さん。 「嘘じゃない。本当だ」 鞠家さんがにっこりと柔らかな笑顔を浮かべ、沙智さんの頭を優しく撫でた。 「鞠家はかれこれ2年以上、お前にゾッコン惚れているんだよ。゛須賀井゛としてお前を追いかけ回すうち、本気で好きになったんだと。鞠家はな全身全霊でお前を守るため、警察を辞める覚悟を決めた。鞠家の言葉に二言はない」 伊澤さんの言葉に信じられないと言わんばかりに目を見開く沙智さん。

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