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番外編 鞠家さんの正体

『おぃどうした?』 『兄貴、赤ん坊の泣き声が中から聞こえたような気がしたんです』 『アホか、赤ん坊はそこら中にいるやろ』 外からはっきりと聞こえてくる声にびくびくと怯えながら、太惺と心望に「ママが側にいるからね、お利口さんにしててね」あやしながら小声で話し掛けた。 「九鬼総業は成宮が後ろ楯につくなり幅をきかせて歩くようになりやがった。他所のシマにも土足で入り込んで挙げ句にはそこを縄張りにしている組を乗っ取って、組長の娘をさらってリーにペットとして献上する。やりたい放題だ。取り締まるはずの警察も上からの圧力に屈して見て見ぬふりだ。これ以上犠牲者を出す訳にはいかない」 伊澤さんがスマホの画面を見せてくれた。そこには仲良く腕を組み満開のひまわり畑をバックに楽しそうに笑う母と娘が写っていた。 「彼女は娘を助けるために単身アジトに乗り込んだ。でもすぐに手下に捕まって、娘の目の前で強姦され殺された。娘は辱しめを受ける前にその場で首をかっ切って自ら命を絶った。俺はもうじき定年だ。成宮と刺し違えてもヤツを捕まえたい。琥珀、時間がないんだ。ヤツが隠れていそうな場所を教えてくれ」 伊澤さんが姿勢をただし紗智さんに頭を下げた。 鞠家さんも背筋をピンと伸ばし慌てて紗智さんに頭を下げた。 「……マー、手………」 長い長い沈黙の後、紗智さんが重い口を開いた。言われるままに手を差し出すと、白い掌が静かに重なってきた。

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