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番外編生命(いのち)の線引き

「・・・・尊・・・・・」 一太のあどけない顔にかつてのお兄ちゃんの姿を重ね合わせたのだろうか、彩さんの目からはらはらと涙が零れ落ちた。 「何で」そう言いかけてその場に足元から崩れ落ちた。 「アンタみたいな気色悪い生き物の子供がこの世に生を受けて、アタシのお腹の子が生を受けないなんて理不尽だと思わない?何で生命《いのち》の線引きをされないといけないの‼未知、アンタさえいなければ、アタシも尊もこんな惨めな思いをしなくて済んだ。アンタが憎い」 白目を剥いて吐き捨てると懐からもう一丁隠し持っていた拳銃を取り出した。 恐怖のあまり足ががくがくと震えて、その場に縫い止めされ身動きさえ出来ないでいたら、一太がすっと立ち上がり僕を守るように彩さんの前に立ち塞がった。 「一太ダメ、逃げて‼」 「なんでおねえしゃんは、ままをわるくいうの?ねぇ、なんで?」 大きな瞳を真っ直ぐに向けて不思議そうに彩さんを見上げた。 「五月蝿い!五月蝿い!」 ブンブンと首を横に振りながら銃口を一太の額に向ける彩さん。一太は怖がる様子も見せず、 「いちたね、パパとやくそくしたんだ。パパがいないときはぼくがママやハルちゃん、たいくん、ここちゃんをまもるって」 そう口にし動こうとはしなかった。 そんな一太の毅然とした姿に、彩さんの心は振り子のように大きく揺らいだ。

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