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番外編 裏切ることは絶対に許さない
地竜さんは誰にでも人当たりが良く面倒見がいい。あくまでそれは心を許した人と気に入った人にだけ見せる仮の姿で………
「昇龍会の動きはどうだ?」
「幹部と傘下の組に命じ、福島と近隣の県に組員を総動員させ、血眼になって捜している」
「無用な情けに惑わされ逃がすからこうなるんだろうが。違うか」
問答無用とばかりにダオレンの頬を平手打ちにした。
「浩然とマーナオ、恩を仇で返すとはな………」
悔しさを滲ませ、近くにいた手下の男達をじろりと睨み付けると中国語で怒鳴り散らした。
みな平身低頭し、蜘蛛の子を散らすようにあっという間にいなくなった。
「ダオレンお前もだ、さっとここに浩然とマーナオを連れてこい!」
声を張り上げ恫喝した。
ダオレンさんは何かを言いたそうだったけれど、ぐっと堪え部屋から出ていった。
遡ること一時間前………
追っ手を何とか振り切り警察署のすぐ前まで来たのに。
突然姿を現した黒いワンボックスカーがタクシーに体当たりし停車させると、間入れずに運転手席めがけて容赦無用とばかりに何発も発砲してきた。
パンパンと鳴り続ける銃声と窓ガラスが割れる音に驚いてギャンギャンと大声で泣き出した太惺と心望。一太も怖くて震えながらも、泣きそうになりながらも、兄として必死に太惺と心望を守った。
銃声がピタリと鳴り止み、ぐるりとタクシーを取り囲んだ男達の背後から地竜さんが不適な笑みを浮かべゆっくりと姿を現した。
「良かった無事で………卯月さん、菱沼組と昇龍会が必ず君や子供達を助けるから………坊や偉いな。さすがお兄ちゃんだな」
血まみれの脇腹を押さえながら運転手さんが気丈にも笑顔を見せてくれた。
発砲音に気付いた警察官がすぐに駆け付けてくれたけれど、地竜さんの手下の男達がその警察官に向けて発砲し、その隙にタクシーから無理矢理引き摺り下ろされ、ワンボックスカーに子供達と一緒に押し込まれた。
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