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番外編 それぞれの愛のかたち
「そんなに驚くこともあるまい」
少し間を空けてベンチに腰を下ろしたのは地竜さんだった。顔を隠すように深く帽子を被り、半袖の白シャツにジーンズ姿という初めて見るラフな格好に思わず二度三度見したら、クスリと苦笑いされてしまった。
「渡すのを忘れたから」
そう言ってスマホを渡された。
取り上げられたあと、すぐに処分されたと思っていたから驚いた。
「アルバムを見たら捨てるにも捨てられなくなった」
彼や子供達との大切な思い出がアルバムに保存されてある。どう頑張っても取り戻すことが出来ないとかなり落ち込んだ。
「お前は不思議な子だ。つくづく思うよ。だって普通、組員一人ずつ写真は撮らないだろう?」
「菱沼組のみんなは家族も同然。だからちゃんと全員の顔と名前を覚えないと失礼かなって思って………だってこんな僕でもみんな姐さんって呼んで慕ってくれるから………」
「そうか」
地竜さんの視線がメリーゴーランドに向けられた。
「まさか琥珀とマーナオを匿うとはな………余計な面倒に巻き込まれるぞ。今ならまだ間に合う」
「琥珀さんとマーナオさんじゃない。ここにいるのは度会紗智さんと、卯月那和さんだよ。僕は二人のマーだもの。覚悟は出来てる」
別に強がっている訳じゃないけれど笑顔で答えた。
「マーって………そうか。覚悟が出来ているならそれでいい」
すっと音もなく手が伸びてきて。
気付いたときは地竜さんの手が、スマホを握り締める僕の手を包み込んでいた。
「今生今世永远爱你…………未知、我爱你」
「え?」
あの時言われた言葉だ。
意味が分からなくて首を傾げていると、クスクスと笑われた。
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