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番外編 心に降る雨
「鞠家さんもその辺りの事情は誰よりも一番分かっていました。トラウマを抱えた紗智さんをこれ以上怖がらせないようにするにはどうしたらいいか、かなり悩んでいました。ハグが出来るようになるまで1ヶ月近く掛かりましたからね」
そうか。だからなんだ。誓いのキスが頬っぺたじゃなくて、手の甲だったんだ………
笑顔の下で紗智さんは一人でもがき苦しんでいた。橘さんとなら怖くない。だから一緒に結婚式を挙げたんだ。
母親失格だ。
紗智さんのこと何も知らなすぎた。一番近くにいたのに何もしてあげられなかった。
落ち込む僕に「マー悪くない」那和さんが笑顔で励ましてくれた。
彼や紗智さんの帰りを待ちながら、ソファーに横になりうとうとしていたら、ガタガタと物音がして。帰ってきたのかな?そう思いながら眠気眼を擦りながらよろよろと起き上がると、紗智さんが勢いよく飛び込んできたから驚いて一瞬で目が覚めた。
「マー、マー」
胸に顔を伏せて肩を震わせ泣きじゃくる紗智さん。
「もう駄目、嫌われた」
上は半袖のシャツ一枚。下は下着しか身に付けていなかった。雨に濡れたのか全身がびしょびしょに濡れていた。
「風邪をひいちゃうから、まず着替えをしよう。それから話しを聞くから、ね?」
「やだ、やだ、やだ。もう死にたい」
駄々を捏ねる子供のようにブンブンと首を大きく横に振った。
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