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番外編 心に降る雨
「紗智ここにいたか。まずは着替えろ」
彼が姿を現した。
「いやだ」
「さっきから風邪をひくって何度も言ってるだろうが。たく、強情なんだから」
テーブルに着替えのスエットを置くとやれやれとため息をついた。
「怒っても仕方ないでしょ」
彼のあとに続いて姿を現したのはバスタオルを手にした千里さんだった。
パサッと紗智さんの頭に掛けると、笑顔で話し掛けながら髪を優しく拭きはじめた。
目が丸く膨れ上がって、何も見えなくなるほど泣きじゃくっていた紗智さん。
落ち着く頃を見計らって千里さんが、自分の生い立ちをぽつりぽつりと話しはじめた。
「千里も…………なの?」
全身の血管がいっぺんに凍ったように愕然となる紗智さん。
「それにマーも、心もよ」
「マーも?心も?嘘…………」
信じられないとばかりに目を見開いた。
「その前に着替えしよう。マーや遥琉、みんな心配してるから、ね」
「うん」
素直にこくりと頷くといそいそとシャツを脱ぎはじめた。
「下はいいよ。そのままで」
僕や千里さん、それに彼や弓削さんら幹部の皆さんがにいるのにも関わらず、何ら躊躇することなく下着を脱ごうとした紗智さんを千里さんが慌てて止めた。
「何で?」
目をぱちぱちさせてきょとんする紗智さん。
不思議そうに首を傾げた。
そんな彼を哀しげに見詰める千里さん。
哀しみは胸を戦慄かせ、涙が溢れ、零れ落ちた。
「紗智の体は紗智のものよ。リーや真沙哉のモノじゃない。だからこれからは自分自身をもっともっと大切にしてあげて」
「この体………俺の?いいの?本当に?」
鼻をずずっと啜りながらも嬉しそうににこっと微笑む紗智さん。
「うん、そうだよ」
まるで子供のようにあどけなく笑う姿は痛々しくて……胸が締め付けられるくらい辛くなり見ていられなかった。
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