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番外編 穏やかで愛おしい日々

「さん、何のために車椅子を準備したか分かってますか?」 ペンションに帰るなり橘さんの雷が落ちた。 「いちいち言わなくても分かってるよ。俺はただ未知の世話がしたいだけだ」 ハイハイで鷲崎さんにそぉーと近付いた太惺。顔を見上げじっーと見詰めた。 「どうした太惺?俺はお前のパパじゃねぇぞ」 太惺は小さな手でズボンをぎゅっと掴むと、よいしょっと立ち上がった。 「だから俺はパパじゃねぇぞ」 鷲崎さんが急にわたわたしはじめて。 橘さんに助けを求めた。 「抱っこして欲しいんですよ」 「今まで赤ん坊を抱っこしたことは一度もない」 「まぁ、そう言わず抱っこしてあげてください。脇の下に手を入れて、ゆっくりと抱き上げるんです」 「こうか?」 橘さんに言われた通り、四苦八苦しながら も太惺を抱っこしてくれた。 「遥琉の息子だとは思えないくらい可愛いな」 興味津々にネクタイを眺めていた太惺。 やがて小さな手を伸ばし、ネクタイを両手で掴むとツンツンと引っ張って遊びはじめた。 そんな太惺を鷲崎さんは愉しげな眼差しで見詰めていた。 一方の心望は、大好きな紗智さんと那和さんと遊んでもらいキャキャと黄色い歓声を上げていた。 「なぁ、橘。話してやれ」 ボソッと鷲崎さんが独り言のように呟いた。 「覚えていなくても、未知は菱沼組の姐さんだ。覚悟くらい出来てる。そうだろ?」

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