900 / 3637
番外編 心望の初節句
伊澤さんと蜂谷さんに付き添われ、福島市内にあるF警察署に茂原さんが出頭したのはそれから一週間後、ちょうどひな祭りの朝だった。
この日は幼稚園の最後の保育参観日で、朝からバタバタしていたときに鞠家さんから橘さんのスマホに連絡が入った。
返信が来ないのを分かっていながら、茂原は、健気にも炎竜に愛してるとメールを毎日打ち続けている。これからは俺が茂原の面倒をみる。伊澤さんがそう決心したことも話してくれた。
「きょうはね、ハルちゃんとここちゃんのひなんだよ。みんなでおめでとうしようね」
遥香と心望に笑顔で手を振りながら一太が、元気いっぱい、園バスに乗り込んでいった。
子供たちの前ではいつも通りに振る舞う。
決して暗い顔をしない。彼とそう決めたから、僕も笑顔で手を振り一太を見送った。
鳥飼さんと黄さんに守られながら、遥香と手を繋ぎ、心望を脇に抱っこしてログハウスに戻ると、ついさっきまで寝ていた太惺が目を覚まし、機嫌よく紗智さんたちに遊んでもらっていた。
「夕方までにパパたち帰ってくるといいね」
「ここちゃんの初節句なのにね」
伊澤さんに茂原さんの弁護人を頼まれた橘さん。取るのも取らず急いで彼とF警察署に向かった。
遥琉さん、橘さん、鞠家さん、みんな無事に帰ってきますように。
紗智さんに買ってもらったカエルのキーホルダーをギュッと握り締めた。
ともだちにシェアしよう!