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番外編 ミツさんの正体
弓削さんと蜂谷さんの説得にミツさんは無駄な抵抗をせず観念したみたいだった。迎えに来た渡辺さんに両腕をすっと差し出した。
「あれ~~確か、シェドや石山に命を狙われているから保護してくれって言ってなかったか?俺の聞き間違いか?」
その言葉にハッとして顔を上げるミツさん。
「両親がある新興宗教にのめり込み、幼少時代、両親から引き離されて狭い部屋に押し込まれ、大人たちに性的な悪戯を受けていたって聞いたぞ。あんたも被害者だ。ひかりが丘厚生学園の鈴木はあんたの妹なんだろう?」
「違う」
三本菅さんが語気を強めた。
「俺の記憶が正しければ、三十年くらいまえだったかな。あるヤクザがスーパーで万引きしていたふたりのこどもを目撃し注意した。ソイツは知り合いの刑事に、自分にも子どもがいるから分かる。万引きするくらいだから何か事情があるんじゃないか、目が助けてと言ってる。至急保護してくれと頼み込んだ。その後ふたりは、母方の祖父母に引き取られ、養子になった。三本菅、昔の記憶なんぞこれっぽっちもないかも知れないが、ファミレスで泣きながら食べたイチゴパフェの味は忘れていないはずだ。今も大好物なんだろう」
渡辺さんの視線が根岸さんと伊澤へと向けられた。
「三本菅、お前さんと妹を助けたヤクザと刑事はそこにいるふたりだ」
「嘘だ。そんな訳……」
首をぶんぶんと横に振る三本菅さん。何かを思い出したのか、やがてその目からは涙が溢れた。
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