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番外編 ミツさんの正体
三本菅さんに根岸さんが、あとで食え。そう言って紙袋を差し出した。
「あの……」
「橘みたくうまくは握れなかったが、まぁ、そこは大目にみてくれ。朝めしまだだろう。中身は、鮭と塩昆布と鶏そぼろ。一つずつ入っている。ほら、遠慮するな」
なかなか受け取ろうとしない三本菅さんに痺れを切らしたのか、根岸さんが手にそっと握らせた。
「根岸の息子と同じものが好きだったはずだ。違っていたらすまない」
伊澤さんが声を掛けた。
「いえ、好きです」
三本菅さんが鼻を啜りながら首を横に振った。
「伊澤は一目見ただけで、彼はミツじゃない。かなり大昔に一度だけ会ったことがある。そう言って今も大事にしまっている古い手帳を引っ張り出したんだ。世間は広いようで狭いな、まさかこんな形で再会するとは思わなかったが……聖羅生きていてくれて本当に良かった。紅愛《くれあ》も元気なんだろう」
「なんでその名前を知ってるんだ」
「当時としては変わっていた名前だったからかな。不思議と記憶に残ってるんだ。渡辺は信用していいデカだ。紅愛を助けられるのはきみしかいない。まだ間に合う」
「根岸の言う通りだ。お前はひとりじゃない」
根岸さんと、駆け付けた彼に諭され、三本菅さんはその場に泣き崩れた。
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