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番外編 頭隠して足隠さず
「オヤジカッコいいだろう?」
「惚れ惚れするだろう?」
「はい!」
廊下に控えていた譲治さんの声がいつもより弾んでいた。
「未知、黒いジャージの男が譲治か?」
「はい。そうです」
「やっぱり達治に全然似てないな。悪い、独り言だ。聞かなかったことにしてくれ」
鍋山さんと若い衆のあとをくっついて歩く譲治さんを遠巻きに見ながら龍成さんがぼそっと呟いた。
「あの、龍成さん……」
「未知、のぞみに挨拶してくる。線香の一本くらいあげてやらないとな。バチが当たる」
龍成さんからメモ紙を渡された。見ると、【木多《きた》 希実《のぞみ》】と書かれてあった。
「譲治は楮山組では何故か木多ではなく、壱東の苗字を使っていた。達治に迷惑を掛けないように、譲治なりに気を遣っていたみたいだ。未知、譲治を温かく迎えてくれてありがとう。達治が感謝していた」
「僕は何もしていません」
「謙遜するな。七海、行くぞ」
「龍成だけ先に行ってて。今、それどこじゃないから」
太惺と心望は七海さんといないいないばぁーをしたり、かくれんぼうをして遊んでいた。
「たく、しょうがないな」
龍成さんは苦笑いしながら仏間へと向かった。
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