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番外編 子はかすがい

「俺と龍が何を言っても柚は一切耳を貸してはくれなかった。幸の痛い、痛いっていう悲鳴が台所まで聞こえたんだろう。紫さんと橘がお玉としゃもじを持ったままだったから、何事かと慌てて駆け付けてくれたんだと思う。幸は助けを求めるように咄嗟に紫さんの袖を掴んだ。紫さんは柚に幸が痛がっているから手を離すように頼んだ」 「でも柚さんは離さなかった」 「その通りだ。さらに強い力で引っ張ったものだから幸が大声で泣き出した。紫さんはその泣き声を聞いてすぐに幸の手を離した。でも柚はそのまま幸を引きずって行こうとした。だから橘が通せんぼうをして雷を落とした。何があっても子どもたちの前では喧嘩をしない。大声を出さない。怒らない。あの橘がだ」 「信孝さん、幸ちゃんは?」 「膝を擦り剥いて血が出ていたからめぐみが絆創膏を貼ってくれた。念のため斉木先生が診てくれたから良かった。出掛ける前で」 信孝さんが安堵のため息をついた。 車に乗り込もうとしていたときウーさんが何かに気付き、ドアを開けたまま突然駆け出した。何事かと思ったぞ。斉木先生も心配してすぐに駆け付けてくれたみたいだった。

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