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番外編 王劉帆という男

「そうだ。親が急に亡くなり日本に行けなくなった。旅費を肩代わりするから、この荷物を日本の空港で待っている友人に渡して欲しい。これを今日中に日本へ運ばないと会社が倒産する。空港でそう声を掛けられたらしい」 「いかにも胡散臭い。おかしいとは思わなかったのか」 「連れの男が女から離れる瞬間を虎視眈々と狙っていたんだろうよ。女を嵌めて、ギャフンと言わせるつもりでな。復讐の鬼と化した女ほど怖いものはない。騒ぎを尻目にソイツは何食わぬ顔で入国審査をパスし荷物を受け取り入国した」 覃さんが何かに気付いたみたいだった。少し遅れて青空さんも気付いた。 アロハシャツは真山さんも好んでよく着てる。 「風神雷神の和柄のアロハシャツを着ている男はそうそういない。金のネックレスに金の指輪と高級腕時計。かなりの目立ちたがりやだと見える。職務質問されもおかしくない格好なのに誰も気に止めないとはな」 男性は一人なのに大きめのスーツケースを二つ持っていた。 「顔見知りか?」 鞠家さんが声を掛けたのは鍋山さんだった。譲治さんや若い衆の先頭に立ち庭掃除をしていた。 「いえ、違います」 「嘘をつくのが相変わらず下手だな。顔に顔見知りだって書いてあるぞ。なぁ、ハチ」 「あぁ」 「さすがは元デカ。職質のプロだっただけはある。知らぬ存ぜぬはやはり通用しないですね」 鍋山さんがそばにいた若い衆に竹箒を渡し、縁側へと腰を下ろした。首に掛けていたタオルで額の汗を拭きながら、鞠家さんから渡されたスマホの写真をじっと見つめた。

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