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番外編 王劉帆という男

「ーー……兄貴で間違いないです」 鍋山さんが静かに口を開いた。 「相楽の舎弟か?」 「はい。表向きは投資家です。裏では口では言えないような汚れ仕事や相楽に命令されれば何でもしてました。サツに目をつけられるようになり、相楽の命令で海外にいたほうが足が付かないからと、東南アジアの国々を転々とし、シノギを稼いでいた。所詮は悪党だ。同じ穴のむじなだ。利害関係が一致すれば黒竜と裏で繋がっていても何らおかしくはない。相楽が行方知らずになり急遽帰国したのだろう」 鍋山さんがスマホを鞠家さんに返した。 彼はグレーのカットソーにライトブルーというカジュアルな格好だったが、見られていることに気付いたのか、こちらを見る眼差しが底冷えするほどで、態度も素っ気なく、無表情なのも相まって今まで感じたことのない恐ろしさを感じた。 「これではせっかくの水もしたたるイケメンが台無しだな。非常に勿体ない」 「顔は良くても中身は最低最悪の悪党ですよ。ヤツは」 身長が百九十センチ近くはあるという男性。日本人離れした華やかな容貌で男女問わずににモテモテだと鍋山さん。男らしい幅のある肩と長い脚に圧迫感すら感じた。 鍋山さんは自分が分かっている情報を鞠家さんたちにすべて伝えた。 「いいのか鍋山?」 「いいも悪いも相楽とは縁を切った。俺のオヤジは卯月組長ただ一人」 きっぱりと言いきる鍋山さん。自信に満ちた表情はどこか晴れ晴れとしていてとても誇らしげだった。 「オヤジが拾ってくれたから俺も家族も路頭に迷うことなく、生きていられるんです。オヤジには感謝しかない。譲治が呼んでいるので持ち場に戻ります」 すっと立ち上がり、腰を九の字に曲げて頭を下げると、譲治さんのところに戻っていった。

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