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第3話 緋に染まる 3
いつも緋の部屋で会っていたが、たまには外に出掛けようと緋を迎えに行って街に出た。
緋は人混みが苦手のようで、目を離すと人にぶつかったり人の波に飲まれて逆方向へ進んでたりする。
俺は小さく息を吐くと、「ほら、緋」と手を伸ばして、華奢な白い手を強く握りしめた。
「あ…、自分で歩ける…」
「はあ?おまえ、すぐにどっかに行っちまうじゃねぇか。大人しく繋がれてろ」
「……」
グイグイと手を引いて歩く俺の後ろを、緋は俯きながらついてくる。
手を繋いだことが不満なのかとチラリと緋を振り返ると、目の縁を赤く染めて微笑む顔が目に入った。
俺は、グッと唇を噛み締めて再び前を向く。
ーーそんな顔、俺以外に見せんじゃねぇ。
すれ違う人々が、緋を見ながら通り過ぎる。
俺は周りを威嚇するように睨み付けると、もっと強く緋の手を握りしめた。
買うあてもなく店を覗き、テラスのあるカフェで軽く食事を終えて、次はどこに行くかと思案しながら歩いてる時だった。
手を引いていても時おり人にぶつかる緋が、また前から来た背の高いスーツ姿の男と肩がぶつかったらしく、「あ、いたっ…」と小さく呟いて立ち止まった。
「悪い。よく見てなかったよ」
「あ、いえ、こちらこそ、ごめん…な…さ…」
丁寧に謝ってきた男に答えた緋の様子が、おかしい。
男はすぐに去って行ったが、緋はカタカタと震え出して身体が大きく揺らいだ。
俺は慌てて建物の陰に連れて行き、震えが収まらない身体を強く抱きしめた。
「おいっ、一体どうしたんだっ。気分が悪いのか?」
「……いつ、……あいつだ」
「なに?さっきの男のことか?」
「…はっ!どこ…っ、どこに行った!?僕は…僕がっ、やらなきゃ…!」
まだ身体が震えて足も覚束無いのに、緋が俺の胸を押して、男が去った方へと走り出そうとする。
俺は更に強く抱きしめて、「緋っ、しっかりしろ!俺が傍にいる!」と叫んだ。
暫くは俺の腕の中でもがいていた緋だけど、だんだんと静かになって、そのうちに俺の胸に頬をペタリとつけて大人しくなった。
だけどまだ、細い肩が小刻みに震えている。
もしやと緋の顔を覗き込むと、次から次に涙を溢れさせて泣いていた。
「緋…、あいつを知ってんのか?」
ビクン!と肩を跳ねさせて、緋が顔を上げる。
俺は頬に流れる涙を吸って、何度も背中を撫でた。
ヒクヒクとしゃくりあげながら、緋が声を絞り出す。
「…あいつ、は…、僕の…父さん、母さん、を…っ、こっ、殺したんだっ!」
そう叫ぶと緋の呼吸が荒くなり、カクンと力が抜けて意識を失ってしまった。
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