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第1話

 廃れた街の大通りから波が引くように人間が消えていく。  先刻まで青すぎるほどに青かった空がまるでくじらの腹のような大きくて迫力のある雲に一瞬で覆われてしまって。  ポタ。  地面を水滴が弾いた。瞬間、バケツをひっくりかえしたような雨がどばどばと降り注いできたから。  (こう)は何年も前からそうあり続けているような年期の入ったシャッターが閉まっている店の軒先に逃げ込んだ。  錆びた心もとない屋根に弓矢のように雨が突き刺さっていく。  ちびが無中でピアノを掻き鳴らした時のような音だった。  無秩序な旋律。  聞くに堪えないピアノとフォルテ。  だけど死ぬほど楽しそう。  耳に劈くけど、なんか面白かったから。煙草を唇に挟んで、溜め息のように息を吸って火をつけた。肺に煙が心地いい。  映画を見ている時のような気持ちで、屋根の向こうの空を見ていた。風の流れが速いから、きっとすぐに晴れるだろう。  周囲には誰もいない。雨のカーテンが幸を特別な気持ちにさせたし、同じくらい孤独な気持ちにさせた。こういう憂いも悪くない。好きだ。 「どうして笑ってるの?」  声が聞こえてきたのは雨が少しずつ静謐になってくじらの腹が裂けた頃だった。腹を貫く太陽の光を見ていた顔を聞こえた方に向ける。

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