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ぺニスネックレスと睾丸数珠

今日もいい天気」 僕は大きく伸びをしながら、空を見上げる。とてもいい天気だ。 今日もどうか穏便に過ごせますように。と小さな願いを太陽に込める。 「おはよう。秀くん!」 「おはよう。有紀くん」 クラスメイトの有紀に声をかけられ僕は挨拶を返した。 「ねぇ、聞いてよ」 「どうしたの?」 有紀は何か嫌ことがあったようで、表情が少しだけ暗い。 「今日、盛ったアルファに襲われそうになったんだ」 それを聞いて僕は背筋が凍りつく。有紀くんを心配したわけじゃない。襲おうとしたアルファに同情していたのだ。 それには理由があった。 「で、ど、どうしたの?」 「え、んとね。金玉ぶちけってやって、鼻の穴に指突っ込んで、警察呼んだ。でも、もしかしたら引き裂いちゃったかも」 当然の事をしたような表情の有紀だが、恐らくそれ以上の事をしたような気がする。 見た目は中学生くらいの美少年なのに、やってることはエグい。本当にオメガなのかと疑問が出てくる。 身長も同じくらいで外見が平凡な僕に比べたら、アイドルのように可愛らしいのに同じ人間なのか疑いたくなる。 というよりも、この白桔梗学園に通うオメガはみんなこんな感じで、恐ろしく強いのだ。 メロンパンのような肩パットをつけた、世紀末感あふれる某漫画のキャラクターのように。 「そ、そう」 「でもさ、酷いよね。ボクは被害者なのに『金玉潰して。目潰しするのはやりすぎ』って注意されたんだ」 金玉どころか目玉も潰したのか。なにそれとても怖い。軽くスプラッターじゃないか。 「ちょっとやりすぎじゃ」 僕は言いかけるがすぐに有紀にそれは遮られる。 「何?だってさ!おかしいでしょ。被害者にも落ち度があるって言われるのに、返り討ちにしたらやりすぎなんて言われるなんてさ!」 確かにその通りだ。やり返した被害者が悪いなんておかしい。だけど、僕は有紀が怖い。ていうか、この学園のオメガはみんな怖い。 「『番戦争に生き残る』が校風なのに、好きでもないアルファに抱かれるなんてボクは無理」 「……そうだね。それにしてもいつの間にオメガだけの高校になってしまったんだろう」 実はこの高校は、アルファもベータも通っていたが、いつの間にかオメガとベータだけが通う学校になっていた。 「アルファが片っ端からラットを起こして、オメガに襲うからじゃない?襲われたら返り討ちにするのが当然でしょう?だって番戦争に生き残れないじゃない。僕は運命の番を見つけるんだ。」 顔だけ見ると夢見る少年だが、やっていることはアルファ狩りでしかない。そして、この学園のアルファが消えたのは恐らくこの思考のせいだろう。 ラットを起こす度に不能にさせられたら、誰でもケツを巻くって逃げ出すというものだ。 ここにいるオメガは、アルファのペニスをぶつ切りにしてネックレスを作るか、金玉で数珠を作るような猛者しかいない。 なぜなら『番戦争に生き残る』ために好きでもない、アルファに抱かれるは彼らにとっては許しがたいものだからだ。 愛する者に抱かれるために身を守るという貞操観念は素晴らしいと僕は思う。 けれど、性的な被害に遭うためか、憎しみをアルファに向けているようにも思えるのだ。 彼らは下手したらアルファというだけで殺しかねない。殺さないのなら、二度と誰も抱けない身体にしそうなのだ。 だから、毎日ビクビクしている。 なぜなら僕はアルファだから。ペニスネックレスも睾丸数珠も作られたくない。 出来ればアルファと知られたくない。 有紀ならきっと僕のペニスネックレスと、睾丸数珠を身に付けて葬式に参列しそうな気がする。 だけど、僕にはこの学園に通う理由があった。 「ラットが来ない?」 「はい」 アルファの父親に聞かれて、僕は恥ずかしがりながら返事をした。こういう性的な話を親とするのは、どうも抵抗がある。 「しかし、お前は18歳で精通もあったよな?」 「なんでそういうこと言うの!?」 あまりの父親のデリカシーの無さに、一瞬だけ腹が立つが。すぐに真剣な表情に変わり、つられるように僕は次の言葉を飲み込んだ。 「い、いやすまん。オメガのあの果実が熟れたようなフェロモンを感じないのか?」 「……はい」 アルファのフェロモンはそんな匂いだったのか。僕には未だにそれが理解できない。 「少しだけ考えさせてくれ」 「はい」 父親は何を考えているのか僕には想像がつかなかったが、返事をするしかなかった。 「お前の行き先が決まったぞ。白桔梗学園に行く事になった」 「白桔梗学園!?」 僕はそこをよく知っていた。あそこの学園に通うオメガは恐ろしく強い。強いどころじゃない。狂暴な野獣だと。 彼らは一度街におりてくると、すれ違うたびにアルファに襲いかかり、気が付くとペニスと睾丸が切り取られている。と、噂が流れているくらい恐ろしい存在だ。 とんでもない噂ではあるが、以前ラットを起こした従兄が、白桔梗学園に通うオメガに半殺しにされたと聞き事実なのだと知った。 僕がアルファだと知られたら間違いなく殺される。狼の群れに羊を放り込むようなものではないか。 「僕、嫌だよ!殺される!」 「大丈夫だ!ラットは起きないのだから。お前が襲うことはないだろう」 そうじゃない。そうじゃない。 そもそも、なぜ僕がそこに通わなくてはならないのだ。 「なんで僕が通わなくちゃいけないんだ!」 「え、だってラットが起きないから。オメガと一緒にいれば起きるでしょ?きっと」 まて。まて。矛盾してるにもほどがあるじゃないか。 ラットを起こしたら最後僕は殺されるじゃないか。 「とにかく、通うのは確定してるから。逃げても無駄だよ」 その一言で僕は逃げられない事を悟る。そして、僕は白桔梗学園に通う事になった。 僕はとてもじゃないが『番戦争に生き残る』事は無理だと思う。 そもそも、生きてこの学園から卒業できる自信もないけれど。 僕にできることは毎日目立たないように穏便に過ごすことだけだった。 「秀くんは痴漢に遇ったりしないの?」 「僕はないね」 僕は痴漢に遇ったりはしない、なぜならアルファだから。僕を襲うアルファなんて、ペニスでローストビーフを作るくらい気が狂っているだろう。 「そう、秀くんは気が弱そうだし。力も無さそうだからそういうのなくて本当に良かった」 「ありがとう」 有紀はこういう所は本当に優しくて、僕がアルファだと知ったら友達じゃなくなるんだろうかと不安になる。 「ねぇ、知ってる?今日から転校生が来るんだって」 「そうなんだ」 有紀が瞳を輝かせてそんな事を言うから、僕はなぜか不安になってくる。恐ろしく嫌な予感がしてきた。 「どんな子?」 「えっとね。ラットを起こした10人のアルファを鉄パイプでタコ殴りにして少年院に入っていたんだって!」 有紀よりも狂暴な男が来るのか!? 僕が命の危険を感じていた。

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