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第3話

 すると。 「――オイ、どこに行こうとしてる?」  先輩が、僕を呼び止めた。 「え? 隣がアシスタントの部屋、なんですよね?」 「お前はこっちだ」  先輩はそう言って、何故かベッドを指さしている。  ……申し訳ないけど、全く理解ができない。 「僕、アシスタント……ですよね?」 「お前、絵とか描けないだろ」 「えっと、はい。でも、これから頑張って覚えます!」 「心意気は立派だ。だが、お前はこっち」  先輩は、尚もベッドを指さし続けている。  僕はてっきり、絵を描いたりする為に呼ばれたんだと、思っていた。  だけど……先輩は、そういうつもりじゃなかったらしい。 (何でベッド?)  僕はわけが分からず、先輩を見上げた。  その視線で、僕が困惑していると察してくれたのか。  ――先輩が、驚きの言葉を口にする。 「――お前がするのは、デッサンモデルだ」 「……デッサン、モデル?」  つまり、えっと……?  僕は絵を描くとか、ベタを塗る? とか……そういうことをするんじゃなくて。  先輩が描く絵のモデルをする、ということだろうか?  それで、ベッドを指さしているとしたら……?  ……何で、ベッド?  ヤッパリ分からない。  動こうとしない僕を見て痺れを切らしたのか、先輩が僕に近付く。  そして、無理矢理僕の腕を引っ張った。 「え、まっ、先輩?」 「横になれ」 「なん――うわっ!」  ベッドの近くまで僕を引っ張ると、先輩が僕の背中を押す。  バランスを崩して、僕は思わずベッドに倒れ込んだ。 「ポーズ指定するから、言う通りにしろ」 「な、何でベッドに……?」  先輩は作業机の上からスマホを取り、僕に向ける。  そして一度だけ鳴る、シャッター音。 「え……い、今……撮りました?」  もう、なにがなんだか分からない。  いきなり、好きな人に写真を撮られた。  しかも、特に表情を作っていたわけでもなかったから……きっと、間抜けな顔だったはず。  そう思うと、恥ずかしくなってくる。  先輩は相変わらず不機嫌そうな表情で、僕を見下ろした。 「次の漫画、男同士の恋愛ものなんだよ。そんなジャンル描いたことねぇから、資料が欲しい」  ……男同士の、恋愛。  そう言われて、僕の気持ちを言い当てられたわけじゃないのに、ドキッとしてしまう。 「自分の体なら見飽きてるが、資料は多くても困らないからな」  そう言って先輩は、ベッドの上に膝をついた。  そのまま、僕に近寄る。 「せ、先輩……っ」 「仰向け」  急に距離を詰めてきたことに緊張しているのは、僕だけだ。  先輩は短く、指示を出す。 「両手首、頭の上」  それだけ言うと。  先輩は僕の両手をひとまとめに掴み、僕の頭上に持っていった。

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