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第4話

 先輩の、長い指が。  大きな手のひらが、僕に触れる。  先輩からしたら、今の僕はただのデッサン人形のようなものかもしれない。  ……けど。  ――僕は、そうとは受け取れない。 (先輩の手、大きい……っ)  変な意味なんてないのに、触れられた箇所が過敏に反応してしまう。 「先輩……そのっ、えっと」 「紐が必要か」  僕の戸惑いはお構いなしに……先輩は、先輩の頭の中にある構図をどんどん僕に当てはめていく。 「ま、待ってください! あの、僕――」 「シャツでいいか」 「話を聞い――ちょっ、先輩っ!」  先輩が僕の腕を掴んだまま覆いかぶさっていて、ただでさえ胸が苦しいくらい、ドキドキしているのに。  ――先輩は突然、僕の腕から手を離して。  ――服を、脱ぎだした。  もっと痩せこけているかと思っていたけれど、僕の平坦な体とは全く違う。  そこそこに引き締まっていて、男らしい上半身。  一瞬だけ見とれてしまったが、僕は慌てて目を逸らす。 「な、何で、脱いで……っ!」  僕の問い掛けに、先輩はあっけらかんと答えた。 「お前の腕を縛る為だが」 「縛る……?」  先輩は自分の脱いだシャツを、僕の両手首に近付ける。 (まさか……!)  先輩は脱いだシャツで、僕の頭上に両手首を固定させた。 「膝を合わせて……そうだな、足はこう」  先輩の手が、今度は僕の足を掴む。  上半身は寝そべらせたまま、膝を立てている状況。  しかも、両手首は頭上で固定されている。 (恥ずかしい……っ)  まるで、先輩に拘束されているみたいだ。  ……いや、先輩からしたらデッサンの為の行為だけど、実際は先輩に拘束されているんだから、間違いじゃない。  思わず僕は、赤面する。 「表情は……いいな、それがいい」  納得したのか、先輩がまた僕をスマホで撮った。  こんな恥ずかしいポーズを、好きな人に撮られるなんて……想像すら、していなかったのに。  ――何故か、妙に体が熱くなってくる。 「もう少し、着崩した方がいいか」  僕の慌ただしい気持ちとは、対照的に。  冷静に独り言を呟いている、上半身裸の先輩を……僕は、直視できない。  ――そのせいで、僕は油断してしまっていた。 「……っ! や、やだ、先輩っ!」  ――突然。  ――先輩の指が僕のズボンに、触れてきたのだ。 「少し下げるぞ」  ベルトを外され、チャックを下げられる。  ……そんなことをされて、冷静になれるわけがない。 (手が、近い……っ)  触れられるはずがないのは、分かってる。  それでも、僕の股間の近くに先輩の手があるというこの現状が、落ち着かない。 「上も少し捲っていいか?」  訊いてくるくせに、先輩は僕の答えを待たず勝手にシャツを捲る。 「……っ」  先輩の、冷たい指が。  僕の肌に、直接……触れた。

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