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第9話 * ~了~
僕を犯している先輩の熱から、先輩の限界が近いことを察した。
そして、それは僕も同じだ。
「――日達。……好きだ」
先輩の手が、僕の硬く張り詰めたところに伸びる。
涙を流しながら、僕は先輩に向かって叫ぶように応えた。
「先輩っ、僕も……好き、です……っ! 先輩が、ずっとずっと、好きですっ! あっ、あぁっ!」
添えられた先輩の手が、僕の熱を再度扱く。
それによって、全身に力が入る。
「日達、日達ッ! ナカに出すぞ……ッ!」
「先輩っ、あっ! あぁぁっ!」
「く……ッ!」
先輩の手に、僕が熱を吐き出すのと。
僕のナカに、先輩が熱を吐き出すのは。
……同時、だった。
* * *
「――しまった」
二人で湯船に浸かっていると、先輩が僕の頭の上で呟く。
「先輩? どうかしました?」
先輩の脚の間に座ったまま、僕は頭上にある先輩の顔を見上げた。
先輩は僕をしっかりと抱き締めたまま、忌々しそうに眉を寄せている。
「写真を残していない」
「写真、ですか?」
僕が鸚鵡返しのように訊き返すと、先輩は憎々し気に舌打ちをした。
「あぁ。……ナカに出されて呆けてるお前に見惚れたくせに、それをデータとして残すのを忘れていた」
「な……っ!」
心底悔しそうな声をしているから、なにかと思えば。
とんでもないことを、先輩は口走っている。
「扇情的な図だった。必ず次の漫画に活かせる最高の一瞬だったって言うのに、俺としたことが……ッ!」
「先輩っ!」
「何だ」
僕に呼ばれて、先輩は不機嫌そうな表情のまま、視線を合わせてくれた。
「そ、そういうのは……恥ずかしい、です」
僕はそれだけ呟くと、湯船に口まで浸かる。
そんな僕の様子に、先輩が不思議そうに反論した。
「写真を撮られて勃起してただろ」
その誤解に、素早く顔を上げて反論し返す。
「撮られたから勃ってたんじゃなくて――」
「あぁ、そう言えば」
「話を聴いてください!」
先輩は激高する僕のことを気にした様子もなく、突然。
腕に、力を籠めた。
それによって、力強く抱き締められる。
「大事なことを言っていなかった」
先輩はそう言うと、僕の目線に合わせるように顔を下げて。
細い目を更に細めて……微笑んだ。
「日達」
「は、はい……っ」
こんなに穏やかに笑っている先輩は、初めて見た。
不意に、胸が高鳴ってしまう。
先輩は微笑んだまま、囁いた。
「順序は逆になってしまったが、もう一度告白させてくれ」
僕は小さく頷く。
「――好きだ、日達。お前さえ嫌じゃなければ、アシスタント兼恋人として、同棲してくれないか」
その告白を、断るだなんて。
先輩はきっと、思っていないのだろう。
だから、こんなに余裕たっぷりで穏やかな笑い方をしているんだ。
「――不束者ですが、よろしくお願いします」
そう答えると、つられて僕も。
――笑ってしまった。
【住み込みアシスタントはデッサンモデル】 了
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