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第8話
「中也!」
「ッ!?」
己を呼ぶ声に中也が目を醒ますと其処に在ったのは間近に迫る太宰の顔。
「太ざッ……!」
ごちん
「あいたあ!」
勢い良く起き上がろうとした中也の額と顔を覗き込む太宰の額は景気の良い音を立て、次の瞬間には額を抑え痛みにのたうち回る二人の姿が在った。
其の時慥かに中也が目にしたのは、太宰の手の中に在った高笑いを浮かべつつ消滅する薄気味悪い人形。
「……Q、の?」
「森さんから大急ぎで来て呉れと云われて渋々来てみれば痛いだけじゃあないか全く」
不服気に唇を尖らせ文句を口にする太宰の言葉で中也は漸く自らの身に起こった事を理解した。
「そうだ、俺は……Qを踏ん付けちまって其れで……」
今迄の事が凡て夢だったのか、額の鈍痛が今が現実で有ると示して居る。其れならば何処迄が夢だったのか。
「……オイ、太宰」
「なーに?」
「触っても善いか?」
「はあっ!?」
素っ頓狂な声をあげる太宰の腕は普段通り包帯が巻かれて居る。夢の中で見たような凸凹した腕では無く、成人男性特有の程好く肉付いた腕だった。
「手前の手に触れたい」
「……気色悪いのだけど」
「頼む」
「別に善いけどさ」
中也が如何様な悪夢を見て居たのか太宰には計り知れない。其れでも今中也が望む言葉は何かしらの確認の為であろうと太宰は五指を広げて中也の目前に翳す。
震える手を近付けて重ねれば太宰の側からそっと握り込む。
「……厭な夢だった?」
「噫……」
「私は此処に居るよ。 何処にも行かない」
繋いだ片手同士を起点とし、無意識に近付く二人は何方とも無く唇を重ねる。
「……手前は、」
「……うん?」
「後悔して無ェか?」
「……後悔しないよう、今此の瞬間も君の事だけを考えて居る」
「二度と手前の手を離さない」
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