13 / 13

第13話 白斗君達のこれから

「ふーん」  これまでにあったことと、そこから得られた結論を全て報告し終わった直後の、おしゃぶり昆布を咥えた輝名の感想がそれだ。 「ふ、ふーんって、アンタ、他に言う事無いんですか?!」 「えー? 別に……白斗と翡翠君が決めた事なら別に俺はなんとも思わないけど……」  ドライすぎんでしょ、アンタ……。呆れる白斗の隣では、ずっと翡翠が顔を真っ赤にして俯いている。付き合うことになった、と報告している間中ずっとそうしていたから、よほど恥ずかしいのだろう。 「だって俺は、別に白斗が毎日ヘドロちゃんでヌイてるって報告された時だって、」 「わーーっ! なんてこと言うんですかアンタ!」 「ま、毎日、ヌイて……」 「語弊があります! おかずにしていただけですよっ! 怖くないですよ、翡翠君。僕は極健全なネットアイドルオタクですから」 「健全なネットアイドルオタクはストーカーとかしないと思うんだよね〜」 「す、ストーカー……?!」 「輝名、貴様ぁ〜!!」  白斗が輝名の肩を掴んで揺さぶるが、輝名はいつもの顔で「うわ〜」と棒読みしているだけだ。暖簾に腕押し。白斗はため息を吐いて、輝名から手を離した。 「まあいいです。アンタにリアクションを期待するほうが悪い。本題は別なんですよ」 「なに〜?」 「お、お付き合いって……、何から始めたらいいんですか……」 「はぁ〜?」  白斗まで真っ赤になって聞いたのに、輝名は相変わらずのリアクションだった。 「だから! お付き合いって! 何から始めたらいいんですか!」 「知らないよ〜、翡翠君と話し合って決めたらいいじゃない〜」 「ばっか、アンタが彼女持ちのリア充だから聞いてんでしょうが!」 「……あのねぇ、白斗。前からずっと思ってたんだけど、白斗は誤解してんの」  輝名はため息を吐いて、スマホをいじると「ほら」と画面を見せてきた。そこには、白くてふわふわの猫が写っている。 「猫ちゃんですね」 「可愛い猫ちゃんです」  翡翠も覗き込んで、うんうん頷いている。 「これが、白斗が俺の彼女と思ってる子」 「はぁ?!」 「ついでに言うと、オス。俺に彼女なんかできるわけ無いでしょ、人間嫌いだし」  輝名がスマホをポケットにしまいながら、そう言う。彼は幼少期の経験から、すっかり人間に対してドライになってしまった。彼が唯一友人と公言しているのが、白斗だ。その事実のあまりの重さに一瞬クラクラしかけたが、白斗はもっと重大なことに気付いて、わなわな震えた。 「じゃあ……じゃあお付き合いの仕方、知らないんですか……」 「だーかーら、それは2人で探していけばいいでしょ。それもお付き合いのうちじゃないの? 知らないけど」  俺アイス買いに行ってくる。輝名はまたマイペースに買い物に出かけてしまって、部室には白斗と翡翠が残された。翡翠はチラッと白斗を見ては、恥ずかしそうに俯いているし、白斗もドキドキしてしまってどうにもこうにもならない。 「……えーと、……何、します……?」 「お、お付き合い、ですか……?」 「そ、そうです、お付き合いっぽいこと……」 「……手、を繋ぐ、とか……」  俯いたまま聞き取れる限界の声でそう言うのが、またいじらしくて可愛くて仕方ない。ああーーー、翡翠君可愛いよーー、と心の中で叫びながら、白斗は「じゃあ、」と手を差し出した。その手を、翡翠がおずおずと握り返す。きゅ、と掴まれて、愛らしさで胸が張り裂けそうだ。 「あの……これからも、よろしく、お願いします……白斗さん……」 「こ、こちらこそ、不束者ですが……」  ギクシャク挨拶していると、翡翠が顔を上げて、微笑む。その笑顔が最高に可愛い。たぶん、宇宙で二番目くらいに。へへ、と顔を綻ばせていると、「アイス何がいい?」と輝名が部室のドアを開けてきたから、2人は大慌てで手を離した。  おかしな関係のままだったが、2人のそれは、純愛にも似ていた。

ともだちにシェアしよう!