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⑨ライバルは突然牙をむく。
「ごめんなさいっ! こんなふうに騙 すつもりじゃなかったんだ。花音には好きな人がいて……この話を引き受けられなかったんだ。だけど祖父さんの遺言を無下にはできなくて! だから俺が花音に扮装するしかなかったんだ。頼む月夜!! これは……このことで俺を責めるのはかまわない。俺のことを最低な奴だと罵ってもらってもかまわない。だけど俺の家族だけは許してくれ。悪気がないなんて言葉が通用しないのも知っている。だけど……家族だけは……頼む……」
俺は膝を折り、ただひたすらに謝る。
地面に頭をこすりつけ、土下座しながら謝る俺の口内は、しょっぱい塩の味がした。
俺――泣いているんだ。
それくらい月夜のことが好きなんだ。
今さら、これ以上好きになってもどうしようもない……。
そんなことはわかってる――はずなのに。
俺ってどれだけおめでたい奴なんだろう。
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