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⑧ライバルは突然牙をむく。
俺は苦痛と悲しみを耐えるため、両の拳をより強く握った。
体が冷たい……。
寒い。
「ね? ひどいでしょ? 彼女――いいえ、彼と彼の家族は、月夜くん一家を騙していたのよ!!」
「……っつ!」
――ああ、知られてしまった。
遅かれ早かれ、いつかはこういう日が来るとは覚悟していた。
だけどそれが今日だなんて思いもしなかった……。
痛い。
胸が痛い。
苦しい……。
ふたりの射貫くような視線が俺を襲う。
きっと月夜は俺のことを最低な奴だと思っているに違いない。
怖い。
月夜の顔を見るのが怖い。
「……っつ!!」
逃げたい。
早くここから。
弱虫で意気地のない俺は、好きな人の射貫くような鋭い目から逃れたかった。
だから話しはじめる。
早く、この時間が終わるように。
月夜から逃げたい一心で――。
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