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⑰『大嫌い』は大好きの裏返し。

 あなたが、幸せになってくれるのなら……。  笑っていてくれるのなら……。  これで――いいんだ。  だけど、さ。  いくらそうやって自分に言い聞かせても、月夜を想う心が苦しい。  俺は目を伏せる。  もう月夜に話すことなんて何も無い。  これ以上、自分の気持ちに嘘をつけない――。 「…………」  静寂がキッチン全体を包む中、俺の荒い呼吸しか聞こえない。  絶望と深い悲しみ。  そのふたつが俺の中で肥大していく。  沈黙だけが流れる空間に、月夜はゆっくりと口を開いた。 「だったら……なぜ泣く必要がある?」 「――っ」  思ってもみない言葉が降ってきて、俺の体が動揺で大きく揺れた。  ……俺が、泣く?  月夜は何を言ってるんだ?  顔を上げると、悲しみに歪んだ月夜の顔が俺を見下ろしていた。  月夜の手が伸びてくる。  振り払わなきゃ。  そう思うのに――。  ああムリ。  ダメだ。  悲しみに捕らわれている俺はもう月夜の手を振り払う力さえなかった。

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