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⑱『大嫌い』は大好きの裏返し。

 そうしてただ立ち尽くす俺の頬に、繊細な長い指が触れた。 「亜瑠兎……」  憂いをもった声で俺を呼ぶ。  月夜の指が濡れている。  ああ、本当だ。  俺、泣いていたんだ。  そんなことにさえ気がつかないなんて……。  それくらい俺の心が打ちひしがれていたんだ。 「ねぇ、亜瑠兎。一緒にいる期間は短かったけれど、俺はいつだって君を見てきたつもりだよ。君は金のためだけで動くような奴じゃないことも知っている。――泣いている君を放っておけるはずがないだろう? 好きだよ、亜瑠兎」 「――っつ」  ダメなのに……。  離れなくちゃいけないのに……。  俺と一緒にいれば、月夜は幸せになれないのに……。 「ダ……メ」  俺は震える唇をそっと開いた。 「ダメだ。それじゃ、ダメなんだ!! 月夜には華道がある。俺といちゃ、ダメなんだ。俺を選んでも月夜は幸せになれない!」  だから離れなきゃ。  でも離れたくない。  ふたつの両極端な感情が交差する。  精いっぱい首を振れば、目の端では零れた涙が次から次へと散っていくのが見える。

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