267 / 305
⑱『大嫌い』は大好きの裏返し。
そうしてただ立ち尽くす俺の頬に、繊細な長い指が触れた。
「亜瑠兎……」
憂いをもった声で俺を呼ぶ。
月夜の指が濡れている。
ああ、本当だ。
俺、泣いていたんだ。
そんなことにさえ気がつかないなんて……。
それくらい俺の心が打ちひしがれていたんだ。
「ねぇ、亜瑠兎。一緒にいる期間は短かったけれど、俺はいつだって君を見てきたつもりだよ。君は金のためだけで動くような奴じゃないことも知っている。――泣いている君を放っておけるはずがないだろう? 好きだよ、亜瑠兎」
「――っつ」
ダメなのに……。
離れなくちゃいけないのに……。
俺と一緒にいれば、月夜は幸せになれないのに……。
「ダ……メ」
俺は震える唇をそっと開いた。
「ダメだ。それじゃ、ダメなんだ!! 月夜には華道がある。俺といちゃ、ダメなんだ。俺を選んでも月夜は幸せになれない!」
だから離れなきゃ。
でも離れたくない。
ふたつの両極端な感情が交差する。
精いっぱい首を振れば、目の端では零れた涙が次から次へと散っていくのが見える。
ともだちにシェアしよう!