1 / 7
第1話
父さんは、怒りながら、ボクとヴィアンテの元に来る。
そして、ヴィアンテの胸ぐらを片手で掴み、怒鳴る。
「よくも自分たちを騙していたな!? この化け物め!」
「…………」
「何とか言ったらどうなんだ? あ!?」
ヴィアンテは、父さんの手を掴み、静かに言う。
「放してくれませんか? あまり乱暴は好きではないんです」
「何を……!?」
「……はぁ」
ヴィアンテは、ため息を吐き、父さんを見る。
「この汚い手で、俺に触るな。と、言ったのがわからないのか?」
「ぃあっ」
父さんは片手を抑え、ヴィアンテを睨む。
「何する、貴様!」
「少し力を入れただけ。大袈裟だな」
「っ」
「敬語とか使うの、あまり得意じゃねえんだ。敬ってない相手に使うのは、苦痛でしかない」
やれやれ、と言うようにヴィアンテは父さんに言う。
「ベルンシュタイン=ルルベルト。お前の虚栄はすごい。素晴らしいと思う。俺は人間のことなんて知らないし、興味などない。ただ、お前の利己主義な考えは、不愉快だな」
「な……?」
「よくも騙したな、か……」
くくっとヴィアンテは父さんを嘲笑する。
「それは、ロザリアがお前に対する台詞だ」
「え」
急に話を振られ、ボクはキョトンとヴィアンテを見る。
「えっと……?」
「気づかないのか? ここまで来て。ロザリア、お前は本当に鈍いな」
「?」
「ここにいるお前の父、ベルンシュタインは、お前のこともお前の母のことも愛してなどいなかった。それに、こいつはルルベルトの家の者ではない。元使用人だ」
「き、貴様、なぜそれを……!!」
父さんは驚いた顔をし、ヴィアンテに言う。
「そ、それは知られていないはず! そのことを知っている者は、全員あの夜殺した!」
「調べたらすぐにわかる。まあ、俺は興味なんてなかったんだけど。ロゼリオとの約束のためさ。俺は半分人間だから、人間との約束は守るんだよ。美女との約束なら、尚更ね」
ヴィアンテの台詞に、父さんは膝から崩れ落ちた。
床に手をつき「クソッ」と言う。
ヴィアンテは、父さんを見下ろしながら「ああ、そうだ。ロザリア」とボクに言う。
「この男が、お前に呪いをかけたんだよ」
「呪い……?」
「お前をこの家に閉じ込める、そういう呪い」
「っ」
「それでも、お前はこの家にいたいか? 俺なら、すぐにでもお前の呪いを解き、お前をこの家やこの男から解放することができるが」
どうする? と、ヴィアンテはボクを見る。
父さんもボクを見る。
「ロザリア、この男の言うことは嘘だ! お前に呪いなどかけていない!」
「…………けど、母さんを殺したのは本当なの?」
「っ」
「……ヴィアンテ。ボクの答えは、決まっていたんだ。ただそれで本当に良いのか、悩んでいたんだ」
父さんは、ボクの父さんだ。
ボクを育ててくれた。
身体の弱いボクを。
大切に育てて。
愛してくれている、と思っていた。
だから、そんな父さんを裏切るような真似はできなかった。
だけど、父さんが否定したのは、呪いのことだけ。
「ヴィアンテ」
ボクはヴィアンテに手を伸ばす。
「ボクは、アナタと共に生きたい。売られて、死んでいくなんて嫌」
「ロザリア」
ヴィアンテは、少し嬉しそうに笑い、ボクを抱き上げる。
「賢い選択だな、ロザリア」
「ありがとう」
ヴィアンテに褒められて、ボクは、きっと顔が赤くなっている。
この気持ちは、何だろう。
ヴィアンテは、知っているのかな。
ともだちにシェアしよう!