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第1話

 父さんは、怒りながら、ボクとヴィアンテの元に来る。  そして、ヴィアンテの胸ぐらを片手で掴み、怒鳴る。 「よくも自分たちを騙していたな!? この化け物め!」 「…………」 「何とか言ったらどうなんだ? あ!?」  ヴィアンテは、父さんの手を掴み、静かに言う。 「放してくれませんか? あまり乱暴は好きではないんです」 「何を……!?」 「……はぁ」  ヴィアンテは、ため息を吐き、父さんを見る。 「この汚い手で、俺に触るな。と、言ったのがわからないのか?」 「ぃあっ」  父さんは片手を抑え、ヴィアンテを睨む。 「何する、貴様!」 「少し力を入れただけ。大袈裟だな」 「っ」 「敬語とか使うの、あまり得意じゃねえんだ。敬ってない相手に使うのは、苦痛でしかない」  やれやれ、と言うようにヴィアンテは父さんに言う。 「ベルンシュタイン=ルルベルト。お前の虚栄はすごい。素晴らしいと思う。俺は人間のことなんて知らないし、興味などない。ただ、お前の利己主義な考えは、不愉快だな」 「な……?」 「よくも騙したな、か……」  くくっとヴィアンテは父さんを嘲笑する。 「それは、ロザリアがお前に対する台詞だ」 「え」  急に話を振られ、ボクはキョトンとヴィアンテを見る。 「えっと……?」 「気づかないのか? ここまで来て。ロザリア、お前は本当に鈍いな」 「?」 「ここにいるお前の父、ベルンシュタインは、お前のこともお前の母のことも愛してなどいなかった。それに、こいつはルルベルトの家の者ではない。元使用人だ」 「き、貴様、なぜそれを……!!」  父さんは驚いた顔をし、ヴィアンテに言う。 「そ、それは知られていないはず! そのことを知っている者は、全員あの夜殺した!」 「調べたらすぐにわかる。まあ、俺は興味なんてなかったんだけど。ロゼリオとの約束のためさ。俺は半分人間だから、人間との約束は守るんだよ。美女との約束なら、尚更ね」  ヴィアンテの台詞に、父さんは膝から崩れ落ちた。  床に手をつき「クソッ」と言う。  ヴィアンテは、父さんを見下ろしながら「ああ、そうだ。ロザリア」とボクに言う。 「この男が、お前に呪いをかけたんだよ」 「呪い……?」 「お前をこの家に閉じ込める、そういう呪い」 「っ」 「それでも、お前はこの家にいたいか? 俺なら、すぐにでもお前の呪いを解き、お前をこの家やこの男から解放することができるが」  どうする? と、ヴィアンテはボクを見る。  父さんもボクを見る。 「ロザリア、この男の言うことは嘘だ! お前に呪いなどかけていない!」 「…………けど、母さんを殺したのは本当なの?」 「っ」 「……ヴィアンテ。ボクの答えは、決まっていたんだ。ただそれで本当に良いのか、悩んでいたんだ」  父さんは、ボクの父さんだ。  ボクを育ててくれた。  身体の弱いボクを。  大切に育てて。  愛してくれている、と思っていた。  だから、そんな父さんを裏切るような真似はできなかった。  だけど、父さんが否定したのは、呪いのことだけ。 「ヴィアンテ」  ボクはヴィアンテに手を伸ばす。 「ボクは、アナタと共に生きたい。売られて、死んでいくなんて嫌」 「ロザリア」  ヴィアンテは、少し嬉しそうに笑い、ボクを抱き上げる。 「賢い選択だな、ロザリア」 「ありがとう」  ヴィアンテに褒められて、ボクは、きっと顔が赤くなっている。  この気持ちは、何だろう。  ヴィアンテは、知っているのかな。

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