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後編

 夕飯は今日泊まるビジネスホテルの近くにあるファストフード店だ。店内には独特の油の臭いが漂っている。 「こういうのも、普段食えねえから楽しいな」 「そうだな」  ハンバーガーセットなんてすぐに平らげられる量だ。5分もあれば完食する。残ったジンジャエールを飲み干すと、目の前に座っている優吾はまだ半分も食べ終えていなかった。 「優吾、どうしたん?」 「なんか、食欲が……」  ふわりと、油の臭いではなく、以前保健室で嗅いだ匂いがした。  甘い花のような匂いだ。店内がこの匂いに、一部の……恐らくα性の人がざわつきはじめている。 「優吾、お前、すごい匂い……してるぞ」  口の中に唾液が溢れてくる。それをゴクリと飲み込む。 「なあ、早く、ホテル……行こうぜ」  優吾の膝が震えている。俺は優吾に肩を貸し、ホテルへ向かった。  接客業につける人間はβだけだ。ホテルのロビーにはホテルの従業員しか居なかった。俺は手早くふたり分のチェックインを済ませ、エレベーターに乗り込む。  部屋に到着しドアを閉めると、密室の中だからか途端にあの甘い花の匂いが濃くなった。 「なあ、優吾……! 本当に、お前、αなのかよっ」 「さぁ……な」 「これ、こんなの……教科書で読んだΩのヒートと同じじゃ、ねえかよ!」  もうこれは、明らかにΩのそれだ。からだが自分の意識と切り離されて、目の前のΩを犯したいと凶悪にからだだけが突き動かされる感覚だ。 「悪ぃな、ちょっと賭けだったんだ」  優吾がベッドの上に俺を押し倒し、前腕を喉仏の辺りに押し付けられた。酸素が回らず苦しい。 「俺、聞いちまったんだ。俺の親、新人類研究所に、勤めてて、Ω性を、研究してるんだと」 「それが……なん、だよ」 「俺、親と血ぃ繋がってねえんだ。Ωをαに変異させる薬を、開発してる親父が、その、モルモットとして、俺を、育ててる、だけ……らしいんだ」 「いつもの、薬か……ッ?」  優吾は体を離して、俺の着ていたTシャツを腕のところまで脱がせる。腕が動かないようにTシャツで縛り付けられ、そしてズボンをパンツごと脱がされた。  優吾は鞄を漁り、いつもポケットに入れていたピルケースを取り出して中の錠剤を口に入れ飲み込んだ。そしてそのまま服を脱ぐ。服を脱ぐと甘い匂いが広がる気がした。あのΩに……いや優吾に飛びかかって犯したい。孕ませたい。 「はは、まじスゲェ。見ろよ、俺のケツの穴……マンコみてぇじゃん」  優吾がパンツを脱ぐと、尻から糸を引くようにトロリとした愛液が繋がって切れた。 「なあ、アンタとの……ガキ、いつか俺が、産んでやるよ。だからそれまでは、これからもアンタが俺を受け止めてくれよ」  優吾は俺の両足の間に入り込むと、自分の後ろの孔から溢れ出す愛液を指で掬い取り、俺の優吾に何度も犯されてきたそこにぴちゃりと垂らされた。 「ひっ、優吾、むり……優吾のナカいれたい」  腰が勝手にヘコヘコと動いて、みっともなく優吾の腹筋に擦り付ける。 「あ? アンタ、勝手にチンコ擦り付けてんじゃねえよ……」 「だって、優吾の匂いが……ああっ!」  いつも使うローションよりトロリとした優吾の愛液で滑ったナカに、優吾自身が入り込む。 「アンタは俺のだろうが……アンタがαで、俺がΩだろうがなんだろうが、それはもう、絶対に変わらねえ」  ギシギシとベッドが軋む。自然に足されていくローションは優吾が腰を動かす度に、優吾の後ろの性器から溢れ出てくる愛液だ。 「ゆ、ご……ゆうご! む、り……も、むり」 「俺も、アンタに、弘志に……このナカ、ぐちゃぐちゃにしてほしいんだぜ?」  優吾に手を持っていかれた先は、優吾の下腹部だった。きっと優吾は、俺の運命の番というものなんだろう。それともこれは、ただのαとΩの関係なんだろうか。  優吾をぐちゃぐちゃにしたい。優吾にぐちゃぐちゃにされたい。ふたりで、ぐちゃぐちゃになりたい。 「……っ、ゆうご、優吾ッ! もっと、俺をぐちゃぐちゃにしてくれっ!」  優吾の背中に腕を回す。ただ、俺は優吾と愛し合いたかった。 「言われなくても、してやるよ……ッ! くッ、弘志……ひろし、好きだ、弘志!」  揺さぶられ、頭がベッドボードに当たる。  欲を吐き出す前独特の押し上げるような感覚と、ナカを刺激されてそこから押し出される感覚が交互に襲ってきて堪らない。 「ゆう、ご……んっ、ンああッ!」 「弘志……」  唇に優吾の犬歯が触れる。一瞬の痛みと噛みつくような優吾のキスは、甘かった。 「あ、も……イクッ! 優吾、優吾ッ!」  全神経が一点に集中して、ドクリと先端から吐き出す。その瞬間はからだに力が入り、優吾が入っているそこも締め付けてしまう。 「ン、クッ……俺も、ナカ、出すからな……ッ!」  奥まで突き入れられた優吾のそれが一瞬膨張し、ビクビクと震え動きが止まる。優吾の吐き出されたもので、ナカがじんわり熱い。  優吾が俺から離れて、もう一度薬を飲む。そういえば優吾がことの最中に薬を飲んでからは、互いに少し冷静になっていた気がする。  部屋に備え付けられていたペットボトルの水を優吾に渡され、ひと口飲むと思っていたより喉が渇いていたらしく、一気に飲み干した。  ふとベッド再度の時計を見ると、深夜0時を回っていた。スマホの通知には同級生からのお祭り騒ぎのようなメッセージが届いていた。 「令和、なったな」 「ああ、新年号ね。どうでもいいや……。それより、悪かったな、なんか、いきなり」  優吾がベッドから離れた場所に置かれた椅子に座って言った。 「いや、別に。つーか優吾、マジでΩなん?」 「なんとなく、俺が、他のαと違うって、中学ン頃から薄々気付いててさ。ガキの頃から、ずっと欠かさず飲んでた薬も、変だなって。したら親父が電話で話してるの聞いちまったんだ」 「だからって、わざわざなんで薬飲まなかったんだよ」 「……俺もアンタが言ってた運命ってやつ、気になっちまったんだよ」 「これ、運命ってことで……いいんかな?」 「違ぇのかよ」 「分からねえ。でも、運命ってことでいいと思う」  俺はこんなにキザなことを言っていたのかと思うと、出会ったすぐのころが恥ずかしくなり、笑えてきた。 「なあ、それより名前。さっきみたいに呼べよ」 「恥ずかしくて呼べるかよ。次は……ガキ産むときだな」 「なあ優吾、そっちの方が恥ずかしくない?」 「うるせえよ!」  そんなやり取りをして、ふたりで笑った。  ゴールデンウィークの終わりまであと6日。未来のことは分からない。それでも、ふたりで生きていきたいと思わずにはいられなかった。   了

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