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第1話

「あの大学にさえ合格できれば」 「この子が、あそこにさえ入れれば、私は本家から認めてもらえる。□□□だなんて、この子が□□□だなんて、許されない」 「あそこに行けさえすれば、□□□だなんて思われない。あそこは、優秀な□□□□だけの学校だもの」  後ろから押さえつけられた両肩が痛い。  お母さんが泣いている。お父さんが怒っている。 「いい子ね、弓弦(ゆづる)。さあ、お勉強しましょうね」  勉強をしていれば、テストでいい点数がとれば、成績で誰にも負けなければ、お母さんは泣かない。笑ってくれる。お父さんも怒らない。褒めてくれる。  「いい子ね」って、言ってもらえる。    *** 「学長の式辞、笑えたよな」 「『アルファ、オメガ、ベータを区別しない』とか言ってたけどさ、この大学、アルファのための学校だろ。オメガが合格できるような偏差値じゃねぇっての」  人、人、人。こんなにたくさんの人を、初めて見た。  前後左右に押されながら、どうにか、入学式のあった会場を出る。出たら出たで、また、たくさんの人がいた。 「入学おめでとうございまーす! テニスとか興味ある?」 「おめでとうございまーす! サークルのチラシです! どうぞ」 「今から、新歓コンパやりまーす! 無料です! ご参加お願いしまーす!」  1人に受け答えしようとすると、その上から更に声が被さり、頭が混乱する。何枚もチラシを受け取りながら、どうにか、門を出た。  桜の花びらが、ひらひらと舞いながら、地面に落ちる。見上げると、青を背景に、ピンク色が咲き誇っていた。  きれい。  そういえば、空も桜も、久しぶりに見た。  なんだか、どきどきしてきた。  今日から、僕の、新生活が始まるんだ。

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