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第6話(修)
弓弦は、長い間、両親から軟禁されていた。その生活は、勉強漬けの毎日だったらしい。食事も睡眠も、勉強の合間合間にとるくらいで、まともにはとれておらず、保護したとき、弓弦は酷く痩せていた。
迎えに行ったとき、まさか、自分1人で家を出ているとは思わなかった。電車やバスにだって、慣れていなかったはずなのに、弓弦はどうやってかここまでたどり着き、入学式にまで出席していたようだ。髪は肩まで伸び、服だって、よれよれのスエットのままだった。これは会場では相当浮いただろう。
日常的に飲まされていた薬のせいか、生活環境のせいか、初め、弓弦には感情がないようだった。恐らくは、味覚も末梢の感覚も鈍っているようで、食事への感想も変で、箸やフォークの使い方もたどたどしかった。
俺のことも忘れているようで、悲しくはあったが、少しホッとした。こんな状態になるまで、あの家から弓弦を助けられなかった情けないアルファだ。幻滅されていても仕方がない。けれど、弓弦は、段々と俺のことも思い出し、そして、昔のように慕ってくれるようになった。あの頃より口数は少ないけれど、俺の後を、ひよこのようについてくる様子はどう控えめに言ってもかわいらしい。
大学には在籍したままだ。弓弦が努力して入った学校だ。無駄にはしたくない。とはいえ、あそこは、アルファが多く集まっている。到底1人にはできず、俺か、俺の友人に常に傍にいてもらっている。
時折、「勉強しなきゃ」と何かにとりつかれたように繰り返すが、その回数も減ってきた。
発情期は、まだ来ていない。
抑制剤で抑えているわけでもないが、保護してから半年、弓弦にはその兆しがない。未だ一緒に眠っているが、俺ばかりが悶々としている。そして、そんな衝動が訪れる度、罪悪感に苛まれている。まあ、これも、罰と思えば、受け入れる他ない。
かわいい弓弦。
昔から変わらない優しさと純粋さは、俺を惹きつけて止まない。アルファだらけの家に生まれ、本家の跡継ぎとして育てられた俺は、その能力と家柄にあぐらをかき、ある意味、傲慢でひねくれたアルファらしいアルファだった。
それを弓弦が変えてくれた。
本能が、弓弦を愛したがった。そして、理性が、弓弦に恋をした。俺の番だと、一目でわかった。弓弦と話をしていると、心が穏やかになった。少しだけ周囲に優しくできた。そして、その変化を嬉しく思った。俺は、どんどん、弓弦に惹かれていった。
***
「修、さん」
これは、どういった状況だろうか。弓弦に、馬乗りにされている。暗い。まだ夜だ。カーテンを閉め忘れた窓から、月の光が柔らかく射し込み、弓弦を照らしている。
きれいだ。じゃなくて。
「どうしたの。弓弦」
「僕、身体が熱くて。苦しい。ここ、おかしい」
そう言って、弓弦は、自分の下腹部からその奥までを掌で撫でた。呼吸が荒い。目が、潤んでいる。香りが、俺を誘う香りがする。
発情期。
あっという間に、悲鳴を上げて理性が逃げていった。こんなものに、敵うわけがない。ごくり、知らぬ間に溢れていた生唾を飲み込む。
弓弦は俺にしなだれかかり、首筋を舐め、頬を舐め、唇に触れてきた。
「修、さん。苦しい、よ」
ひいぃぃぃ。本能までも裸足で逃げ出した。俺は、ただ呆然と、弓弦にされるがままに、パジャマの前を広げられ、そこに、たくさんのキスを浴びた。
すっかり固く立ち上がってしまった性器にも、弓弦は唇を這わせた。
「修さんのここ、大きくなりました」
もう正直すぎる身体が恥ずかしくて、情けなくて、両手で顔を覆った。くちゅくちゅと水音がする。指と指の隙間から覗くと、弓弦が、指を自分の後孔に出し入れしていた。ちゃんと濡れている。長期の抑制剤の過剰摂取、どう見ても発育不良な身体に、ちゃんと発情期が来るのか心配していたが、ちゃんとというか立派に来ているようだ。
「届かない。奥、届かない」
助けてくれ。
弓弦は俺の胸に上半身を預け、腰だけを上げた状態で、必死になって手を動かしている。扇情的すぎる。
「修さんの、欲しい。僕、どうしたらいい?」
どうしたらいいんだよ、もう。死にそう。
弓弦は、身体を起こし、俺のすっかりいきり立ったものを後孔に据えた。そして、そこにじわじわと腰を下ろし始めた。
「ん、はっ、おっきい」
ほんと俺これどうしたらいいの。弓弦の発情期について、色々妄想はしていた。しかし、これは想定外だ。弓弦が、こんなにエロいだなんて、まさか俺を誘ってくるなんて思っていなかった。いや、発情期ってそういうものなんだけれど、まさか弓弦が。弓弦を組み敷く妄想しか言ってみればしていなかった。
弓弦が腰を振っている。いいところに当てようと腰を捻っている。絶景。じゃなくて、いい加減戻ってこい。俺のアルファとしての本能、そして理性。
だめ、よすぎ。
「修さんの、ここにちょうだい」
項、噛みたい。だめだ、保護具をしている。誰がこんなことを。って、俺だ。俺の馬鹿野郎。弓弦がちょうだいと強請っている。俺の子種を強請っている。だめだ、だめだ。弓弦は何もわかっていないんだから、そんなことして万が一のことがあったらだめだ。いや、それもいいかなじゃないから、だめだから。
「だ、め?」
そんな悲しそうな顔されたらもう。
「っ、あ」
気がつけば、俺は、弓弦の細い腰を掴み、思い切り腰を上下に動かしていた。更には、一度抜き、弓弦を押し倒した後、更に深いところまで犯す。
「あっ、あっ」
弓弦はただただ喘ぐばかりだ。普段は低い体温が今は熱いくらいだ。しっとり汗を掻き、掌にすいついてくるきめ細やかな肌が、また、俺の欲を煽る。
「くっ」
「ああっ」
やってしまった。出してしまった。けど、全然落ち着かない。発情抑制剤、発情抑制剤、ベッドサイドに置いてあったはずだ。今更のように思い出した。落ち着け、俺だけでも落ち着くんだ。
弓弦は、恍惚とした表情で、ほのかに笑った。
「修さんの、いっぱい」
助けて下さい。泣きそうになった。
***
その後、なんとか抑制剤を口にできた俺は、命からがら、理性をひっぱり戻し、ゴムを装着した。
出来たのはそれだけで、後は、弓弦に強請られるがまま、自分の思うがままに腰を振った。気がつくと、朝だった。
弓弦は、疲れ切った顔で、俺の腕の中で眠っていた。
やってしまった。
『オメガバース』について、弓弦に教えていたとき、聞かれたことがある。『じゃあ、アルファはどういうものなの』と。
俺は答えた。
「アルファは、オメガを守るためにいるんだよ」
どや顔で言った。
今はそれがとても恥ずかしい。
「修、さん」
いや、本気だけど。
弓弦の首の保護具に唇を落とす。
「次は、ここ、噛ませてね」
起きていたのか起きたのか、薄く目を開けた弓弦は言った。
「早く僕をお嫁さんにしてね」
だめ。かわいい。好き。
(END)
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