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【飛行機雲に想いをのせて】SIVA

『はぁるぅきぃ!』 校舎の屋上で寝そべる眞野時貴(まのはるき)の顔を上から覗き込むようにしている新城真宙(あらきまひろ)。 『相変わらず暑苦しいよ真宙。僕は一人でも大丈夫だって言ってるだろ』 視界が暗くなったのが気に入らないのか、気だるげに呟きながら片目を開け視線を少し上に向ける。 『そんなこと言うなって。ってか!!炎天下の屋上で授業をさぼるお前に言われたくないんだけどぉ!』 『はぁ……』盛大にため息をつきながら上体を起こした。 『なんでそこでため息?いいじゃんほれ、あんぱん』 『え、もうそんな時間?』 『おう、そうだ。もう昼飯の時間だ』 あの頃は二人とも無邪気で今が楽しければそれでいい……そう思っていた――――― どちらか片っぽの気持ちは隠して……。 『あ!!!飛行機雲!!』 :真宙(まひろ)は最後のあんぱんを口に放り込み、雲一つないスカイブルーの空に向かって人差し指を立てながら言った。 『俺、あの雲に誓うぜ!?』 『っはぁ?何をまた突然……』 『なぁはる。俺はお前とずっと一緒にいるからなっっ!俺は、はるが好きだ―――――』 突然の真宙の言葉に口にしようとした言葉を失った時貴(はるき)。自分も密かに思っていた事を隣に一緒になって寝転んでいる親友はいとも簡単に口にする。 『お前ってホント……』 『ん?』 視線を自分に向けられ、その目を見る事が出来なかった時貴はそのあとの言葉を飲み込み『なんでもない。恥ずかしいやつだなって思っただけ』そう言ってほんの少し真宙に背中を向け赤らんだ頬をばれないように抑えた。 そんな飛行機雲に誓った想いは儚く敗れ、二人はそれぞれ家庭の事情によりバラバラになってしまった。 卒業式の最後に写真だけと嫌がる時貴の肩を掴み満面な笑みを見せた。 *** ムクリと起き上がり、ねっとりとへばり着いた汗を手近にあるタオルで拭きながらため息をもらす。 「なんだ?……なんで、今……」 頭を抱えながら視線を本棚に向ける。 卒業証書を片手に肩を組む自分ともう一人─────。 「なにしてんのかな、はるの奴……」 無意識に時計に目をやりその時間に驚いた真宙はため息から悲鳴に変わり、どたばたと部屋を出た。 *** 「真宙(まひろ)!!てめぇまた遅刻か課題増やすぞ!」 「さぁぁせぇん」 講義室に笑いが起きる。蒸し暑い季節は足早にすぎ、太陽の日差しが肌を突き刺すくらいになる頃。 K大に通う真宙はヘコヘコと頭を下げながら席に着いた。 「また寝坊?」 席に着いた先にいた友人に小突かれながら着席すると、リュックから授業に必要なものを取り出す。 「あぁ……まぁ。朝から夢見てさ」切れ味の悪い返事を返すと「ぶは!なにそれウケるんですけどぉ」と笑われる。 「それな」 自分でも、なんであんな昔の夢を見たのかわからない。 そんなに遠い記憶でもないのに、忘れたわけでもない。 「なのに、なんで?」 「ん?」 「おい、そこ!いい加減黙らんか」 結局遅れた講義は少しの居残りと増えた課題を課せられた。 *** へとへとになりながら構内を歩いていると後ろから抱き着くように飛び掛かられ思わずよろける。 「真宙、背中が絶望的に疲れてる」 「おう、絶望的に疲労が全身を駆け巡ってるぜ。だからそんなにのしかかるな」 「そんな真宙君に朗報」 「んぉ?」 丸まった背筋を少し伸ばし背中に乗っかっている友人を振り落とした。 「あっぶねぇな。急に元気になるとか、まだ何も言ってないじゃん」 「いや、お前のその口調と表情から察するに今日はあれ(・・)がセッティングできたんだな!?」 友人は親指を立てニッと笑うと深く頷いた。 「で!?日にちは?!」 真宙は前のめりで質問をつづけた。 「お前どうして合コンで、女子より男子の来る方を気にしてるんだよ」 「え?あぁーちょっと、な」 「あ"ぁっ!お前まさかそっち!??」 「ち、違うわぁっ!!!」 とは言ったものの、真宙自身女子が好きかと聞かれると二つ返事する事が出来なかった。 「まぁどっちでもいいんだけど、今回は女子四人男子四人です!」 友人のスマホを差し出されメンツと場所を確認する。 そこには女子の名前と男子の名前がカタカナで書かれていた。 「まぁ何でもいいんだけど、ちょい待て。これって日付今日じゃん!」 「あぁ―――――「てめぇもっと事前に知らせろっていつも言ってんだろが」胸ぐらをつかみながら、じゃれあう二人はそのまま大学を後にした。 *** 「本日の戦場はこちらになります、真宙様」 友人は腕を伸ばし頭を垂れ、のれんが降りてる居酒屋を指した。 「まぁ外観は悪くない」 「料理も酒も申し分なしですぜ、旦那」 顔を上げて親指を立てる友人に向かって「お前、キャラ定まってねぇー」と笑いながらのれんをくぐった。 「あれ?」 「お、気づいたか、流石真宙。そう!今日はこの店貸し切りましたー!!」 「別にそこまでしなくていいんだけど」 「なんでよぉーじっくり交友関係を深めたいと思ったんじゃんかぁ!!」 首に絡まる腕に力をこめる友人は真宙の髪の毛をくしゃくしゃにする。 「わかったからせっかくセットした髪の毛台無しにするのだけはやめろ」 絡み合ったまま既にメンバーがそろっている席に着いた。 「おっまたせぇ!って俺たちが最後だった?」 友人は真宙と肩を組んだまま輪の中に加わった。 「おせー!」 既に席について酒を飲み始めている他の友人に突っ込みを入れられながら「そんじゃーメンツもそろった事ですので、はじめますかー!」と声を上げた。 真宙もテンションを上げながら辺りを見回し空いてる席に腰を下ろした。 「まずは自己紹介から?」と言う友人の言葉に友人の隣にいる女子が「えーもうおわってるぅ」と唇を突き出しながら言った。 「ってか俺たち抜きで進めてるなよなぁ」 賑やかい声が響き渡る中、真宙は向かいに座って静かにハイボールを飲んでいる男子に目をやった。 (時貴に似てる……あのほくろとか……長いまつ毛とか……あのほくろとか……) 「ね、名前教えて?」 突然腕に絡まる細い手にぎょっとする真宙。 くりくりとした丸い目で真宙を見上げる女子はさりげなく豊満な胸を押し付けている。 「あぁ、名前?新城(あらき)っていいまーす」 適当に頼まれた酒のコップを持ちながらじっと目の前の男子を見つめる。 「あたしはぁ、リカっていいまーす。お酒強いと思ってるんだけど、今日楽しくてもうちょっと酔っぱらってきちゃったぁ。アハハ」 「あーあはは。そりゃ大変だぁー」 ほぼ棒読み状態の真宙の反応に少しムッとする女子。するりと腕から手が抜け反対側の男子に方向を変えていた。 *** それぞれが会話を楽しむ中どうしてか向かいの男子が気になる真宙はいよいよ声をかけようと立ち上がった。 「あのーそろそろ店閉店になるんっすけどー」 立ち上がった真宙に向かってひ弱そうな店員が声をかけてきた。 「あ、まじっすか?」 腕時計を見るとすっかり時間が経過していた。 (俺はこの二時間何をしていたんだ……。早く声かけてみりゃよかったな) 「おい!そろそろお開きにするぞぉーい」 店員に頭を下げながら、終わりを告げる真宙。 店の外に出ていい感じの所もあれば、スマホをかざして連絡先を交換している男女もいた。 「じゃーこの先は自由ですんでー」 真宙はそう言って踵を返した。 結局今日も想い人には会えず、肩を落としていた。友人にカラオケに誘われるもそんなテンションになれず断った。 一人でみんなの輪から離れ帰宅しようと歩き出すと「真宙」と声をかけられた。 「ん?」 後ろから声をかけられ肩を落としたまま振り返る真宙は首を傾げた。 (俺、あの席で名前言ったっけ?) 怪訝な表情を浮かべながら近づいてくる人影に目を細めた。 「真宙。久しぶり」 黒かったシルエットは側にあった街灯の光の下に来た途端はっきりとした。 向かいに座っていた男子だ。 「え、なんで俺の名前知ってんっすか」 「知ってるよ。真宙の事なら何でも―――――」 男子はそう言って手を上げ人差し指を漆黒の空に向けた。その指をスッと引っ張り「飛行機雲」とつぶやいた。 そのフレーズで、脳内が覚醒した。 「……まじ……は、時貴(はるき)……?」 運命的な再会を果たした真宙(まひろ)時貴(はるき)だが、時貴のあまりの変わりように驚きを隠せない真宙。 それでもどことなく面影を残す彼の横顔をまじまじ見ていると「そんなに見つめられたら僕、困っちゃうな」と小さくほほ笑みながら言われ、思わず勢いよく視線を話してしまった。 「と、とりあえず……連絡先、交換、し、しとくか?」 しどろもどろになりながらまたちらりと時貴の横顔を盗み見た。 「うん。いいね」 ポケットからスマホを取り出し真宙に向けてきた。 ぎこちない動きのまま真宙は時貴(はるき)と連絡先を交換した。 *** 衝撃的な再会から数週間。 ラインのやり取りは毎日のように続いた。 顔を合わせなければいつもの調子で話をする事が出来る。 電話も前みたいに軽い口調で言える。だけど、本人を前にするとどうしてかいつもの自分じゃなくなる。 面と向かって会うのはあの合コン以来。待ち合わせ場所に予定時間よりもだいぶ早く到着した真宙は「俺、なんかダサ……」と一人ごちりながら額の汗をぬぐった。 「ごめん、遅くなったね」 「や、俺が早く来すぎただけだし、別に遅れてねぇよ」 「そっか。よかった。じゃ、いこ?」 クールな感じは変わらないのに、どうしてか変わって見える。真宙は少し後ろを歩いた。 「なんか……さ……」 「ん、なに?」 振り返りながら歩幅を緩め隣に立った時貴。 真宙は、隣に立つ時貴に視線だけ上に向けた。 「雰囲気、変わった?」 真宙に言われ前髪をいじりながら「そう、かな……」 腕組をしながら唸る真宙を静かに見つめながら「もう僕はあの頃の僕とは違うよ」とぼやいた。 「へぇどう違うんだよ。イメチェンしてチャラっぽく見えても中身は、変わってないと思うけど」 茶化すように言うも、真面目な時貴は前髪をいじる手を止め真宙を見た。 「そうかな。うん。そうかも。でも、少しでも真宙に近づけたらいいなって思ってたよ」 「は?」 聞き返しながらも遠くで飛行機の低音が聞こえ真宙は空を見あげた。 そこにはいつの日か見た空と同じ、スカイブルーの空に一本の飛行機雲が伸びていた。 「あ……」 真宙の声につられ、視線を上げた時貴(はるき)も飛行機を見つけ「飛行機雲だね」そう言って視線を真宙に向けた。 「あぁ……」 どこかバツが悪そうにしている真宙を真っ直ぐに見つめる時貴は、小さく微笑んだあと大きく息を吸い込むと「まひろぉっ!!」突然大きな声を上げた。 時貴がこんなに大声を出すことなんてなく驚いた真宙は目を丸くして彼を見た。 時貴はまた大きく深呼吸をするとそのままの勢いで「あの日の誓い、忘れてないだろうな!!!」目の前に真宙がいるのにも関わらず前のめりになり顔を赤く染めながら必死になって声を上げている。 真っ直ぐに見つめる瞳はしっかりと真宙をとらえている。 「僕も真宙が好きだ」 先程の声の大きさはなかったものの、はっきりとした口調に真宙は固まった。 「お、おま……なに言ってんの」 「そのままの意味だよ真宙。あの日伝えそびれてたから、ずっと気になってたんだ。偶然でも互いの家庭の事情でばらばらになっちゃって急だったから連絡の手段もなくなって、そうなったら真宙への気持ちがどんどん募って、こじらせて……だから大学入っても彼女なんて作る気になれなくて―――――「ちょ、ちょ、ちょ!待った」急にまくしたてるように話をしだした時貴に両手を上げて言葉を遮った。 怪訝な顔で真宙を見る時貴。 「色々ぶっ飛びすぎてて、まず俺たち久々の再会も無言でろくに話してないのにいきなりそんなん言われてもだな―――――「僕の事嫌いになっちゃった?」 「なるわけないだろ!?いや、ってかマテ。俺の中の時貴(はるき)像が……」 くすっと笑う時貴は「真宙は相変わらずで僕は嬉しい」 「そういう発言だよ……俺を混乱させるな」 「でも、これで両想いって事でしょう?手とか繋いだり出来るって事だよね」 「……あぁ、もう……」 今度は真宙が耳まで真っ赤にさせながら両手で顔を覆った。 「真宙。君が僕を引っ張って行ってくれたように、今度は僕が真宙を引っ張るから覚悟してよね」 両手で顔を抑えたままの真宙はくぐもった声で「よ、よろしくおねがいします」と言った。 ……Fin

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