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第29話 いつもと違うだけで落ち着かないのはなぜだろう

 バイトを始めたのは大学一年の夏頃。月水木金、週四日シフトを入れている。鶴橋が来るようになったのは、バイトを始めて一週間くらい過ぎた頃。店長があのお客さん最近よく来るね、なんて言っててそれから気になるようになった。  いま思うと毎回同じものを買うのは印象に残すためじゃないかと思える。同じ時間、同じものを買って帰る人物は、人がたくさん出入りするコンビニでもかなり記憶に残った。  毎回来るたびにまた来たなって思うし、いつもより遅いと今日はどうしたんだろうって思う。 「あれ、そういえば。今日はいつもの背の高いお客さん来ないね」 「え? あ、もうそんな時間か」  レジを済ませて客を見送っていた俺に店長が声をかけてきた。その言葉に時計を見れば、二十二時を過ぎていた。月水金と鶴橋はコンビニにやってくる。今日は金曜日だ。大体いつも決まって二十一時を過ぎたくらいに顔を見せるのだが、二十二時を過ぎてもまだ来ないというのは珍しい。 「仕事が忙しいのかな。いまの時期はどこも忙しいからねぇ」 「そうですね」  せっかく連絡先を交換したんだからなにか一言くれてもいいのに。仕事が忙しいとかそう言う話は全然しないな。いつも俺のことをばかり聞いて自分の話はあんまりしないんだよな。明後日の予定だってまだなにも話してない。 「なんだよ余裕じゃん」  この前まではあんなに必死な顔してたのに、連絡を取り合うようになってから落ち着いちゃってないか。光喜と付き合っていないってわかって安心してんのか?  俺が光喜と付き合わない保証はないんだぞ。向こうは付き合いも長いし、積極的だし、俺がよろめくことだってあるかもしれないんだぞ。 「って、なんで」  どうして俺が焦らなくちゃいけないんだ。なんであの人のために言い訳を考えなくちゃいけないんだ。朝はいつもと変わらずメッセージくれたじゃないか。まあ昼は、連絡なかったけど。 「忙しいだけかもだろ」  そもそも仕事していていままできっかり時間に来ていたほうが不思議なんだよ。急な予定くらいあるだろう。大人なんだから、人付き合いとか。  だけどそう思うのに、気持ちがざわつくのはどうしてなんだ。なんだか嫌な予感がするみたいな、むずむずとする感じがひどく気持ち悪い。

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