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第30話 駆け引きになんて絶対乗らないんだからな。

 結局、バイトが終わる時間になっても鶴橋はコンビニに来なかった。そして夜に送られてきていたお疲れさまのメッセージも届かない。  ――やめてくれよ。あるものがいきなりなくなったら気になるだろう。それともなにか? 押して駄目なら引いてみろって? 「そんな面倒くさいことに俺は乗らないぞ。駆け引きなんてされても俺は」  なんかムカつくくらいモヤモヤする。振り回されてる感じがたまらなく悔しい。なんで俺がこんなことで悩まされるんだ。連絡がなかったくらいで、顔を見なかっただけで、なんで。  思わず暗い夜道でジタバタとしてしまう。けれど意を決してポケットに突っ込んでいた携帯電話を掴んだ。黙って待ってるのが気になるならこちらからアクションを起こせばいい。別に駆け引きに乗るわけじゃないんだからな。 「ちょっと電話するくらい、なんてこと……って、わっ! ちょっ!」  画面を見つめて一人でうだうだしていたらいきなり携帯電話が震えだした。慌てて落としそうになったそれをあたふたとキャッチして、急いで通話を繋げると暢気な声が聞こえてくる。 「勝利? お疲れさま。バイト終わった?」 「あー、光喜か。……うん」 「あれ? どうした? 今日はご機嫌斜め?」 「別に、なんでもない」 「そういう時に限ってなんかぐるぐるしてるでしょ? あ、今日は金曜日だよね。もしかしてあの人となにかあった?」 「はぁっ? なんでもないっ!」  昔から光喜って勘が鋭いところあるよな。反射的に大きな声を出してしまって、なんかもうバレバレな感じだ。電話の向こうで小さく息をつかれた。ちょっと呆れたような、諦めたような。 「毎日こうやって愛を囁いてるって言うのに、勝利はすっかりあの人に傾いちゃってるね」 「そ、そんなことない! 俺はまだ」  鶴橋のことはなんとも思っていないはずだ。ただちょっといつもと違うからほんの少しだけ戸惑っているだけで、ほかの意味なんてない。  だけどあの人、週に三回コンビニに来るようになってから一度も、来なかった日はなかった。なんでいま来ないんだよ。 「いやいや、違う。俺はなんとも思ってなんか」  話をしたりするのは楽しいけれど、まだ好きだとかそういう感情じゃない。それをこれから確かめようって言う段階のはずだ。

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