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第36話 そういういじらしさはやっぱりグラッとくる

 俺はすごく傷ついたし、ちょっと怒ってたんだぞ。それなのに簡単にそんな言葉でなだめすかされてしまう。好きだ好きだって言えばなんでも許されるわけじゃないんだって、もっと怒ったって許されるはずだ。それなのに嬉しくなってしまうこの感情はなんなんだよ。 「笠原さん、傷つけるつもりじゃなかったんです。軽率なことして、すみません」  どんどん小さくなっていく声がぐずついた涙声になっていく。その変化に思わず閉めていた鍵を開けてしまった。勢いよく扉を開いたらゴンっと鈍い音がする。 「あ、ごめん」 「だ、大丈夫です」 「って言うか、なんで泣いてんの。泣きたいの俺なんだけど」  と言うより少し前まで泣かされてたのだが、自分のほかに泣いている人間がいると涙は引っ込むものだ。それに大の大人が涙を浮かべている姿を見ると泣いてる場合じゃない気になる。俯きがちな顔を下からのぞき込むと、瞬くたびに涙が落ちてきた。 「俺に嫌われるのが嫌だった?」 「嫌です。あなたに嫌われたら、もう」  いつもは年上の貫禄があるのに、いまは幼い子供みたいな顔で泣いている。そして自分の言葉で傷ついてまたぶわっと涙が浮かぶ。その顔を見ているうちに、気づけば手を伸ばして涙を拭うように頬を撫でていた。  ちょっとこれは可愛いかもしれない。泣き顔フェチではないが、べそべそ泣いてる顔に胸がキュンとしてしまった。 「……これも、ギャップ萌えってやつかな」  いじらしいところ見せられるとやっぱりグラッとくる。もっとその顔が見たくなる。 「笠原さん?」 「ねぇ鶴橋さん。俺のこと好き?」 「好きです」  縋るみたいな目で見られてちょっと口の端が持ち上がってしまう。いままでかなり自分が追い込まれているような不利な感覚があったが、いまはそれが逆転した感じ。 「そんなに好き?」 「好きです」 「そうなんだ」 「笠、原……さ」  可愛い、すごく可愛い。そう思ったら両手で泣き濡れた頬を包んで引き寄せてしまった。

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