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第37話 答えはもうずっと前から決まっていたんだ。

 驚きに目を瞬かせたその顔に優越感を湧かせて、名前を紡ぎかけた唇を塞いだ。初めて触れた唇は柔らかくてしっとりとしていた。 「んっ」  気をよくして深く押し入ったら小さく声が漏れ聞こえる。ちょっと身長差で俺のほうが上向かなくちゃいけないのが癪だが、これはこれで悪くない。 「え? 笠原さん?」  唇を離せば目を瞬かせて頭に疑問符を浮かべている顔があった。理解が追いついていない顔だ。息を吐くように笑えば小さく首を傾げられる。 「なんだかずっと主導権を握られっぱなしでしっくりこなかったんだけど。なんかいまわかった気がする。俺、嫌いじゃないよ。好きだよ、鶴橋さんと同じ意味で」 「え?」  言葉を飲み込んで、いまようやく理解が追いついた。それが目に見てわかる。目の前の顔は頬が染まり、熱が広がるみたいに耳まで赤くなった。 「そういう可愛い顔がすごくいい」 「か、可愛くないです!」 「可愛いよ」  いままで押されっぱなしだったからうろたえる顔を見ると気分が上がる。きっと受け身でいる自分の反応に違和感があったんだ。だからストンと気持ちが落ちてこなかった。  振り回されてペースが崩されて、翻弄されている自分が嫌で意固地になっていた。多分男としてのなけなしの意地みたいなもの。 「正直言って全然好みじゃないし、ノンケだし、男前すぎるし、対象外って感じなんだけど。まっすぐに自分だけを見て、好き好き言われ続けるといい気になってくる。だけどすげぇ押されまくりで、その気持ちが自分の感情じゃないみたいな気分にもなるんだ」 「それでも好きだって言ってくれるんですか?」 「ノンケが嫌なのは変わってないよ。俺と付き合っても、あんたが女を好きになる可能性がゼロになるわけじゃない。だけど俺は不安になったし嫉妬もした。頭で考えているよりも好きなんだ」  あの時ひどく気分が重くなったのはどの選択をしても後悔しそうだったからだ。選ばない選択をしたら手に入れなかったことを後悔をする。だけど恋人として選択しても、ずっと好きでいてもらえる確信が持てなくて後悔した。  でもその感情の裏を返せば、好きだからどうしてもこの男が欲しいって言うことだ。

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