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思いがけぬ再会

「やっと会えたね、颯」 急に抱きついてきたその声を、俺は知らない。後ろから漂う甘い香りを、こんなにも良い香りをさせる友人を、俺は知らない。 「僕が誰だか分かる?」 耳元で囁かれる声に、心臓がバクバクと高鳴った。不審者?ここは大学なのに?こんな白昼堂々と? 不吉な考えがグルグルと浮かんで、身体が強張っていく。 時間にして数秒後。言葉を失った俺を見かねたように、パッと手が離れた。 恐怖と共に膨れ上がる「誰か確かめたい」という好奇心に煽られた俺は、思わず後ろを振り返る。 そしてどうやら俺の不吉な考えたちは、杞憂に終わったらしいと知った。 「え、ツカサ……?」 「疑問系なの?ひどいな」 「だって、なんで。今日は平日で……お前大学は?まだ春休み?」 そこに立っていた男は、小学生以来の親友。大学は離れてしまったものの、連絡だけはこまめに取り続けていた親友だった。 「実はね、3年次編入を使ったんだよ。颯には驚かせたくて内緒にしてた」 そう茶目っ気たっぷりに言う司に、俺は「何言ってんの?」と思わざるを得ない。そんな大事なこと、『驚かせたくて内緒にしてた』のレベルではないはずだ。それに司の通う大学はここよりずっとレベルの高い学校で、わざわざここに編入するメリットなんて考えられない。 「冗談……だろ?」 そんな俺の言葉に、司は笑いながら首を振る。 「本気だよ。俺は颯がいないとダメみたい。颯に会えないこの2年間、ほんとに地獄みたいだった」 「そんな理由で……」 「そんな理由、なんかじゃないよ」 間髪入れずそう返され、その声にはわずかな怒気さえ感じる。実際に司からへらへらした態度は消え、口角も下がっていた。 「俺の人生で一番大切なのは颯との時間。これは小学生の頃から変わらない」 それは幾度となく聞いた言葉。俺が司から離れようとする度に、司を俺から離そうとする度に、聞かされる言葉。 「それに『ずっと一緒にいよう』って約束、したでしょう?」 それに溜め息をつきながらも許してしまうまでが、俺たちのやり取りの定型だ。 「そんな子供の頃の約束、今でも律儀に守ってるやつなんてそうそう居ないけどな」 「ありがとう」 「褒めてねぇよ。誠実通り越して、いっそ怖いって言ってんだ」 そんな俺の言葉に笑う司には、反省の色は見えない。そしてこう言う俺自身も、本当に嫌なわけじゃない。だって司は、俺の憧れだから。 なんでも出来て優しくて。みんなの人気者な司が、俺だけを特別扱いしてくれる。そんなの、優越感を感じないわけがなかった。 「今日から颯と一緒に授業が受けられるなんて、夢みたいだ」 「はいはい。司も工学部なの?」 「もちろん、颯と一緒」 「まぁ、前の大学でもそうだったもんな」 不思議な気分だ。今までは画面越しに会話をするか、月に1度会うかくらいだったのに。そんな親友が今は隣にいるだなんて。それ以外は何も変わらないはずなのに、授業を受けるという行為にさえワクワクする。 「おはよ、奏多」 「おー颯!って誰だ?その人」 「俺の幼馴染。わけあって今日からこの大学に来たんだって」 教室に入って一直線に、いつも授業を一緒に受けている友人のところへと向かう。ノリがよくて面白い奴だから、きっと司もすぐに馴染めるだろう。 「植村司って言います。よろしくね」 「へーイケメンじゃん。俺は南雲奏多!よろしくな」 それからは初対面特有の会話が続く。どこ出身だとか、サークルはどこに入るつもりなのだとか、前はどの大学に通ってたのかだとか。 2人ともコミュ力が高いからか自然と笑いの絶えない会話が続いていて、気付けば俺自身も笑っていた。 これからの毎日は絶対に楽しくなる。 2人の大好きな友人に囲まれて、俺はそんな確信を抱いていた。

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