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繫ぎとめるため

俺たちが座るのは、大抵前から4列目。 教授に近すぎることなく、かといって私語に講義の邪魔されることもない席。 大学生なのだからサボりたいと息巻く人が多い中、こうやって向上心を持つ友達に出会えたことは幸せだと思う。 「1回目の授業なのにいきなり内容に入るとはなー。頭パンクしそう」 「概念的なものが多かったからね。むしろ計算に入った方が簡単かも」 「てか司の字、めっちゃ綺麗だよな。ノートちらっと目に入って感動した」 「そう?僕は颯の字の方が好きだけど。女の子っぽくて可愛いよね」 「あっそれはわかるかも」 「2人とも、それ褒めてねぇよ」 もう馴染んだらしい司と奏多は、既に俺を2人でいじるスキルまで獲得したようだ。 「えー褒めてるのに。颯は可愛くて僕の好みだって」 悪ノリはまだ続くようで、司が俺の腰をいやらしく触る。くすぐったさに笑ってしまいそうになって、ぐっと口を引き結んだ。 「何その怪しい雰囲気。司ってもしかしてそっち系?」 「んーん、颯限定。だから盗らないでね」 その間にも誤解を生む発言を続ける司。こうやってイケメン力の無駄遣いをするのは昔からだ。その度に俺の心臓が鼓動を速くするとも知らずに。 「やめろって。悪ふざけしすぎ」 司の手を振りきって機嫌悪くそう告げても、彼はクスクスと笑うだけ。なんだか子供扱いを受けてる気になって悔しい。 「ほら、早く食堂行くぞ。混んじまう」 だから変な空気を振り払うようにそう提案して、歩き出した。 「どっち行く?」 「まぁ、近い方かな」 「いくつか食堂があるの?」 「3つ。どこもなかなかに美味しいぜ」 食堂へと向かえば、既に入口から溢れるほどに行列ができているのが見える。 「へー、こんなに混むんだね」 「司の居たとこはそうでもなかったのか?」 「食堂使ってなかったんだよ。不特定多数の人と同じ席で食べるなんて論外。颯が視界に居てくれれば気にならなくなるんだけどね」 「お前のその理論はよくわかんねぇ……」 「司って、ほんとに颯のことが好きなんだな」 思わぬところから颯、颯と繋げる司にいっそ感心さえする。そしてそれに動じない奏多にも感心する。 さすがは大学の食堂、といった回転率の速さでどんどんと進んでいく列。10分もしないうちに座れた俺たちは、軽く談笑をしながら昼食を食べた。 「颯はサークル入ってないんだっけ?」 「バイト三昧してるからな」 「じゃあ僕もそうしようかな。特に興味惹かれるとこもなかったし」 「そこも颯に合わせるの?司、いかにも『スポーツできます』って顔してるのにもったいない」 「なにそれ。そんなにスポーツは得意じゃないよ」 「まぁ俺はバスケ部入ってるからさ、気が向いたらおいでよ。司なら絶対モテるって!」 「僕は颯にだけ『カッコいい』って思ってもらえれば十分だから」 「欲がないなぁ」 サークルは入らないと聞いて、少しだけホッとする。うまくは言えないけれど、司が遠くに行かなくて済んだ気がした。 大学生の繋がりのほとんどはサークルだと言っても過言でない中、バイトだけをしている俺の人間関係は狭い。 「バイトしたいなら紹介してやろうか?ちょうど人手不足だし」 だから、断られるはずが無いと知って誘う。司を繋ぎとめるために。颯、颯とこれからも言ってもらえるように。 「ほんとに?嬉しいな、颯と一緒に働けるんだね」 「面接とかはあるから、まだ決まったわけじゃないけどな」 「僕がこんな絶好のチャンスを手放すと思う?受かってみせるよ」 その言葉が嬉しい。俺の言葉で司の生活が変わることが、恐ろしくも嬉しい。 「なるほどなぁ……」 意味ありげに呟いた奏多が立ち上がるのにつられて、俺たちも膳と荷物を持って立ち上がる。 あと10分で次の授業が始まろうとしていた。

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