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酔いと、そして

美味しいのと、この後帰らなくてもいいという安心感が相まって、グラスを傾ける手が止まらない。もうそこには最初の遠慮などなく、注がれるままに味わっていく。 「司も飲めよ〜」 次第に、頭がクラクラふわふわしてきた。そんな俺とは対照的に司は涼しい顔のままで、なんだか悔しい。 「ほら〜、注いでやるから」 口から出る言葉が間延びする。焦点もうまく合わなくて、零しはしなかったものの危なげな手つきになる。 「珍しいね、こんなに颯が酔うなんて」 「お前がどんどん注ぐからだろ」 「まぁまぁ。酔った颯も可愛いよ」 「可愛いって言われても嬉しくねー」 笑いながら「ごめんね」という司に反省の色は見えない。なぜなら、謝りつつ俺の頭を撫でようとしてくるから。 「おい、子供扱いすんなってー」 「子供扱いじゃなくて、恋人扱いのつもりなんだけどね」 「お前ほんと、そういうの彼女に言ってやれよ」 「颯が彼女になってくれたら万事解決だね」 「司って時々話通じなくなるよな〜」 この言い合いの間も司は手を伸ばしてきて、俺は諦めてそれを受け入れる。だって動くと体に酔いがまわるし、そもそも体が怠いから。 「かーわいー」 司も目に見えないだけで酔っているのか、幸せそうにわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。まぁ酔っているなら仕方ないかと、許してやることにした。が、 「ほんと可愛い」 これはないだろう。頭を撫でていたかと思えば、そこから下へと手が降りてくる。顎、腰、太もも……。元々スキンシップの多い奴ではあるが、こんなにベタベタと触ってくるなんて聞いていない。 「ちょっ、やめろって」 戸惑って逃げようとすれば、腕をグイッと引かれる。普段では考えられない強引さに、心臓が跳ね上がる。 「逃げないで」 耳元で囁かれた優しい低音。もし俺が女子だったら、一瞬で落ちそうなほどに甘い声。 「キスしていい?」 キス、という単語が一瞬理解できなかったのは、綺麗な顔が正面で笑ったせいだ。絆されそうになって、違うと首を振る。 「まだ、効かない?」 主語のない質問に、頭がハテナマークでいっぱいになる。 「でももういいか。直に効く……よね?」 酔っているからなのか、こちらに伝わってこない1人言を繰り返す司。「何の話をしているんだ」と口を開こうとした瞬間、衝撃的なことが起きた。 「待っ、んんっ」 ぐっと司の顔が近付いてきて、気付いた時には言葉が出なくなっていた。それが宣言通りにキスされたのだと知った時、驚きで酔いが覚めかける。 「……ふっ、ん……」 だから暴れたのに、息を奪うようなキスは止まらない。覚醒しかけた頭をまた眠らすように、深く長いキスが続く。 酸欠のせいか、それとももっと別の要因なのか、どんどん考えられなくなっていく。抵抗しづらくなっていく。それなのに、体の温度は上がっていく。 「あ……」 だからだろう。離れていく司に、残念そうな声を上げてしまったのは。 「美味しい」 離れたすぐにそんな変態的なことを言った司に、嬉しさを感じてしまったのは。

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