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グリーンカレー2
* * *
その日の夜。
コンコン、とグリーンはオニキスの部屋のドアをノックした。
「オニキスさん、お休みのところすみません。起きてますか?」
すぐに中からオニキスが出てきてくれた。
「なんだ。風呂か?」
「あ、いえ、今日は違います」
グリーンは顔をカーッと熱くさせる。
あの日、風呂場でいやらしい事をして以来、何度か一緒に入るようになったのだ。決して口約束をしたわけではない。
わざと遅い時間を見計らって風呂場に向かうと、大抵はオニキスと遭遇できる。
そんな自分に、オニキスは優しく「一緒に入るか?」と言ってくれるのだ。
風呂場の中では大抵、あの日みたいないやらしい事をする。
その行為がたまらなく気持ちよくて、嬉しい。
今日も夕飯の席にいなかったオニキスに、一緒に食堂に来るように頼んだ。オニキスは不思議そうな顔を浮かべながらも、後をついてきてくれる。
オニキスを席に座らせたグリーンは、お皿にご飯とカレーを乗せてテーブルの上に置いた。
「これ、作ったんです。良かったら食べてみてください」
「え、マルーンじゃなくて、お前がか?」
「はい。教えてもらいながら。何回も失敗しましたが、ようやく美味しくできたんです」
カレーに浮かんでいる青唐辛子を見て、オニキスはごくりと唾を飲み込む。
これは、見るからに辛そうだ……と少し冷や汗が出た。
オニキスは辛いものが大の苦手なのだ。
「最近、食欲無いって言ってましたよね。今日だって朝御飯以外、全然食べていないんじゃないんですか?」
「……あぁ、少し疲れが出ているのかもな」
「これ食べて、元気出してください!少しでも食べてくれたら嬉しいです」
無垢な笑みを浮かべるグリーンを見ていると、いつも心が穏やかになる。
ここで食べるのを断ったりしたらきっと傷付けてしまうだろう。
それに、自分の為にマルーンに頼んでまで作ってくれただなんて、嬉しい事をしてくれるじゃないか。
オニキスはニコリとして、スプーンで液体を掬って口に運んだ。
その瞬間、舌が痺れるほど強烈な辛味が伝わって、額に汗がぶわっとにじんだ。
想像以上の辛さに、目を丸くしたまま固まってしまう。
しかしこちらの顔を不安げに覗き混むグリーンと目が合い、慌てて口の端を上げた。
「美味しいよ」
「ほ、本当ですか?」
「嘘吐いてどうする」
どんどん口にカレーを運ぶオニキスを見て、グリーンは安堵の表情を浮かべた。
あっという間に平らげてくれたから、礼を言った。
「ありがとうございます!作った甲斐がありました」
「ん……まぁ、とりあえず水……」
「オニキスさん、カレーお好きなんですね!夕飯にカレーを出す日をもっと増やしてもらえるように、マルーンに相談してみますね!」
「あぁ、そうだな。じゃあ水を……」
「カレーは種類が豊富ですからね。キーマカレーにビーフカレー。毎日だって飽きないですよ。次はどんなカレーが食べたいですか?」
口から火を吹きそうになっているオニキスは、カッと目を見開いて、向かいに座るグリーンの手を握った。
「次もグリーンがいい」
「えっ」
「一番好きだから」
……意味、分かるだろ。
早く気付けよ、俺の気持ちに。
グリーンに向けて、ここぞとばかりに熱っぽい眼差しを送る。
返事を待っていたが、グリーンは瞬きをしながら「はいっ」と大きく頷いて、空になった皿を持ってキッチンの奥へ向かって行ってしまった。
頬杖をついて、皿を洗っているらしいグリーンの背中を見ながらため息を吐く。
(あいつはどこまで鈍感なんだ……)
そんな時、背中に気配を感じたから振り向けば、野菜の入ったダンボールを抱えたマルーンがいて、こちらをじっと見つめていた。
「もっと分かりやすく言わないと。グリーンは駆け引きとか出来ないタイプですよ」
「……」
自分たち以外に人がいただなんて想定外過ぎたオニキスは、恥ずかしさのあまり頭を抱える。
「あの子はアホなド天然なんですから。もっと純粋に、ストレートに言った方がいいですよ」
「くそっ、うるせぇよ!早く水持ってこい!」
はいはい、と困ったように笑いながら、マルーンは水の入ったコップを渡した。
グイッと一気飲みしたオニキスは、早々に部屋に戻ったのだった。
オニキスがいなくなった事に気付かないくらいに動揺していたグリーンは、皿をいつまでも洗っていた。
(あっぶねー!危うく勘違いしちゃうところだったよー!)
グリーンカレーが一番好きって意味なのに、自惚れるところだった。勘違いほど恥ずかしいものは無い。
でもとにかく、オニキスさんが美味しそうに食べてくれたから良かった。自分が作った料理を完食して貰えるのが、こんなにも嬉しいだなんて。
高揚した気分でいたら、マルーンが側に寄ってきたから礼を言った。
「あっ、マルーン!今回は本当にありがとう!次はぜひガトーショコラの作り方も教えて欲しいな」
「……考えておくね」
色々と不器用な二人で面白いなぁと、他人事みたいに笑うマルーンだった。
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