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グリーンカレー1
皆が寝静まったある日の夜、ダークマルーンはグリーンと共に食堂のキッチンにいた。
せっかく今日の分の仕事を終えて部屋で一息出来たところだったのに、再度ここに来るはめになったマルーンは少々疲れた顔をグリーンに向けた。
「食べたいんだったら、今度自分が作ってあげるのに」
「いや、俺が作る事に意味があるんだ。ごめんねマルーン、我が儘を聞いてもらっちゃって」
別にいいけどさ、と思いながら、マルーンは業務用の冷蔵庫からパプリカ、茄子、しめじを取り出してテーブルの上に並べた。
グリーンの急なお願いは、カレーの作り方を教えて欲しいというものだった。
しかも、ごく一般的な普通のカレーではなく、自分の名前にちなんだグリーンカレーを作りたいと。
なんで?と質問しても、急に作りたくなって、とか、もうすぐ夏だし、だとか適当にはぐらかすばかりで詳しくは教えてくれなかったが、マルーンはとっくに分かっていた。
グリーンは、最近食欲不振のオニキスの為にカレーを作ってあげたいのだと。
戸棚を開けて箱を取り出す。その中を見てホッとした。
ナンプラー、ライムリーフ、グリーンカレーペーストもちゃんと常備してあったから。
あと必要なのは、ココナッツミルクとハチミツあたりか。
隣の棚を開けると、瓶詰めされたそれらがちょうど目に入ったから手に取った。
……あれ、ハチミツ、この間封を開けたばかりなのにこんなに減ってる……何かに使ったっけ?まぁ、いいか……
瓶をじっと見つめて考え込むマルーンに、グリーンは憐れむような視線を向ける。
この間、例のカップルがハチミツプレイをしてました……とは言えず、グリーンはマルーンから渡されたエプロンを身に付け、手を念入りに洗った。
「じゃあまずは、パプリカを細切りにして。そのあと茄子を乱切りに、しめじは適当に手でちぎって」
「はーい」
マルーンに言われた通り、グリーンはパプリカを一つ置いて、包丁を持った手を勢いよく振り下ろす。真っ二つになったパプリカは反動でまな板から落ちてコロコロと転がっていった。
「ちょ、ちょっと!ちゃんと手で押さえて切らないとダメじゃん!それに種だってあるんだから、よく考えながら切ってよ!」
「えっ、ご、ごめん」
「……グリーン、今までに料理の経験は?」
「えっ、ソーセージや目玉焼きなら焼いたことあるけど……」
「……」
モジモジするグリーンを見て、これは時間が掛かりそうだな、とマルーンは白目になりたい気分を抑えながら、愛のあるスパルタ料理教室を開催することにしたのだった。
「ほらっ、鶏肉は繊維を断ち切るように切るんだよ!しかも大きさがバラバラ!やり直し!」
「これ、ココナッツミルク溶けきってないよ!ダマになってる!やり直し!」
「なんで適当な量を入れるんだよ!きっちり200ml図らないとダメだろ!やり直し!」
「それ塩!砂糖じゃない!やり直し!」
「わーーー!(鍋から吹き溢れている)」
* * *
「で、出来たぁ……」
キラキラと艶めくカレーを目の前にして、グリーンは涙目になる。
まさか不器用な自分が、まるでお店のメニューみたいなカレーを作れる日が来るなんて。
感激で胸を震わせるグリーンを横目に、マルーンはテーブルに突っ伏して苦笑いを浮かべた。
つ、疲れた……。
自分で作ればものの2、30分で出来てしまうのに、こいつが作るとなぜ5時間以上もかかるのだ。
もう二度とグリーンには料理を教えないと心に誓った。
「マルーン、本当にありがとう!お陰でこんなに美味しそうなカレーが出来たよ!」
「ん……まぁ、良かったね。ちょっと辛めになっちゃったけど、味は保証するよ。オニキスさんに喜んでもらえるといいね」
「うん!ありがとう!」
感激のあまり、はぐらかすのも忘れるグリーンに、マルーンはふふ、と笑みを浮かべる。
自分も最初はそうだった。好きな人に喜んでもらいたいから、料理を始めたのだ。自分が愛情込めて作った料理を美味しいといって食べてくれる。それがどんなに嬉しいことなのか、自分はよく知っている。
もう外が白んできていたことに気付いたマルーンは、そのまま朝食の支度を始めた。
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