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まるくあたたかく 2
逸の淹れたミルクティーを飲みながら敬吾はマグカップで暖を取っていた。
やはりなんとなく体が冷えている気がする。
疲れただけではなく、風邪でも引いたのだろうか。
逸も同じように思ったのかまたも額に触れてみたりしている。
「夕飯どうします?がっつり行けそうですか、それとも軽いほうがいい?」
「んー……」
逸に言われて、敬吾は平素よりも大分のろのろと考えを巡らした。
「えーっと……なんか、わかんない。悪い、先に少し寝る」
「俺は全然いいですけどーー大丈夫ですか?本格的に具合悪いんじゃ」
「や、ほんとだるいだけ、先に食ってて」
ソファから大儀そうに立ち上がる敬吾を見やりながら、逸はしばらく応えなかった。
敬吾の顔色は悪く、眉も苦しげに顰められていて、関節の動きは悪い。
可哀想で、心配でそれ以外のことに神経が向かわない。
「ーー今日、鍋にしましょうか。敬吾さん起きたら、気分でキムチ系にも塩系にもできるようにしておきます」
本当に、優しい男だ。
さすがに笑ってしまいながら頷いて、敬吾は逸の頭を撫でる。
「うん。よろしく……」
「着替えできますか?」
「さすがにそれはできる」
そう言って敬吾は寝室にしている小部屋の引き戸を閉めた。
それを見送ってから、逸は静かに鍋の準備にかかる。
味付けはともかく、野菜類は先に柔らかく煮てしまって胃に優しいようにしておこう。
重いものが食べたいと言われたらその時肉でもにんにくでも入れれば良い。
ーーそんなことをしていると、数ヶ月前のことを思い出した。
以前にもこうして、体調を崩した敬吾のためにここで病人食を作ったものだった。
くすぐったい気持ちになって少し微笑み、煮立った土鍋に蓋をして火を消した。
敬吾は眠れただろうか。
そっと引き戸を開けると、様子見に近づくまでもなく敬吾がベッドの中で僅かに体を起こした。明らかに起きている。
「うわっ……すみません、起こしちゃいましたか」
「いや、起きてた。寝れねー……」
「寝れない……」
苦しげに顔を擦っている敬吾の傍らに腰を下ろす。
焦点は少々危うげで唇も緩く、見ている分には確かに眠そうなのだが。
「神経が立ってるんですかね」
「かもな……」
弟や妹がぐずった時よくしてやったように、逸は敬吾の髪を撫で、腕を回して背中を叩いた。
掛け布団も優しく体に添わせてやる。
敬吾は少々赤くなる。
「……ふふ」
「んん……?」
「や、前もここで敬吾さんのこと看病したなーって、思い出しちゃって」
「ああ……」
逸は嬉しげに笑うが、敬吾は少々気重そうに逸を見上げた。
「世話かけてばっかだな」
「えっ!?いや全然そんなことないすよ、好きでやってます」
「んーまあでも……」
「もし付き合えてなかったらあれが俺の一生の思い出になってましたからね、それがないのは困ります」
「…………そーかい」
「はい」
逸の手はまた戻ってきて敬吾の頭を撫でている。
もしかしたらこの男、あの時もこうして撫でていたのではないだろうか。
その頃の自分はほとんど気を失うように眠っていたから、そうされていたとて気付く由もない。
なんとなし、懐かしいようなくすぐったいような気持ちになった。
一人暮らしは性に合っているが、体調がすぐれない時誰かがいてくれるというのは心強いものだと、あのとき身にしみたのだったーー。
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