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まるくあたたかく 8
とろとろと、そこかしこに逸の手の平が這う。
温かくて柔らかいのにちくちくと電流が流れるようで、敬吾は混乱していた。
さっきまで現から離れることを許さなかった淀んだ疲労感が、今度は突き放すような更に強く繋ぎ止めるようなーー妙な感覚だ。
「ん、……っん……………」
「敬吾さん、ーー息はちゃんとしてくださいね?」
敬吾が苦しげに頷く。
更に触れると深く呼吸を吐き出すさまが従順で可愛らしい。
が、力が抜けているかといえばそうではないように見える。
少々踏み込んでみるべく、逸は敬吾の内腿に手を滑らせた。
驚いたように敬吾が小さく声を上げ、慌ててそれを飲み込む。
それがまた腹の底を擽るようで逸は笑った。
それに気付く余裕もなく、溺れてでもいるように敬吾が首を振った。
「あ、……っや なんっ、やさしくするってゆった、」
「ぁーー……敬吾さんそれちょっと可愛すぎるな……」
敬吾の内腿に力が入って微かに震える。
逸の手も挟み込まれた。
「ーー大丈夫ですよ、敬吾さん力抜いて」
「っ……………」
逸が敬吾の耳元に顔を寄せる。
髪を撫でられ優しい声音で言われると、僅かに体から力が抜けた。
敬吾が目を閉じて逸の肩に顔を埋める。
逸の頬がどうしようもなく緩んだ。
「……良い子」
「っ、ん……、んー……」
「息して……」
敬吾がそれに従っている間に内腿から鼠径部、脇腹へと撫で上げると敬吾が切なげに体を撓らせる。
その背けられた首すじを唇で食んだ。
僅かに力の抜けた脚をやや強引に開かせ、逸が我が身を捩じ込む。
「指だけ入れますよ、力抜いて」
「え……っ、ん……!」
ゆっくりと根本まで飲み込ませた中指でゆるやかに掻き乱すと、敬吾がびくりと体を固める。
枕に深く押し付けられてしまった顔を掬い上げるように頬の下に逸の手が差し入れられると、苦しげに目を瞑ったまま、口を圧迫した親指の付け根を敬吾が唇で食んだ。
「…………!」
「ん………、」
「ーーーーーっ敬吾さん、息……して、くださいね」
「ん……」
やはり素直に深くなった呼吸が逸の手の平に熱い。徐々に体温も上がっているようだった。
渦巻く疲労感が、ゆるやかな快感と安心感、高揚を巻き込んで混沌と化していく。
敬吾はもうほとんど正気を手放していたが、何か口にしていると安心するのか、瞼はゆるく落としたまま今度は逸の親指の先を浅く噛んでいる。
逸は、暴走しないよう自分を御するだけで精一杯だった。
「勘弁してくださいよ、もー……」
聞こえていないのは承知で呟き、逸は更に奥へと指先を捩じ込んだ。
敬吾が引き付けのように背中を反らせる。
徐々に加速する呼吸の中に切なく喘ぎが交じり始めて、逸はなぜかそれを視覚的に捉えていた。
曇った夜の雲間に星屑がちらつくようだ。
そのまま何かに追いかけられてでもいるかのように規則正しく乱れる敬吾が、やや辛そうに感じられてきた。
「ーー敬吾さん、触って欲しいところありますか?」
逸が掠れた声で囁くと、敬吾の瞳が薄く開く。
しばし、快感に追い立てられながら考えているようだった。
逸は急かすことなくそれを待つ。
敬吾の唇が、小さく開いた。
「……、ちゅう……」
逸が笑う。
すぐに唇を重ね、溶けてしまうかもと思うほどに、長いことそうしていた。
自分の境界が分からなくなる。
敬吾がゆっくりとそれを切り上げた時も、どこでつながりが解けたのか分からないほどだった。
僅かに離れた敬吾の顔は、またすぐ逸の首元に埋められる。
その首を強く抱き込まれ、逸がまた笑う。
「ん………っ!」
腕の中で敬吾がきつく張り詰めた。
より強く首が掻き抱かれ、逸も敬吾を抱き寄せる。
何か枷から解放されるようにぬるい粘液を吐き出すと、ほどなくしてそれが完全に弛緩した。
首に回っていた腕をゆっくり解いてやり、忙しなく呼吸を繰り返す敬吾の顔を撫でる。
前髪を梳きながら、逸は優しくくちづけた。
「敬吾さん、眠っていいですからね」
苦しげに寄っていた敬吾の眉間が、安心したようにふっと開く。
瞼も僅かに持ち上げられ、敬吾は少し頷いた。
「…………おまえは、どーすんのそれ…………」
いたずらっぽく逸が笑う。
「ナイショです。おやすみなさい」
敬吾も呆れたように笑ったが、糸が切れたようにことりと眠りに落ちた。
起こさないように軽く体を拭いてやり、さて、と逸は思う。
(どうしましょうね)
不可抗力である、敬吾の寝顔を眺めながら処理したとて文句は言われないはずーーと思っていたのだが。
力の抜けきっている寝顔があまりに無垢で、不健全な目ではどうも見られそうにない。
ぼんやり眺めていると実家にいる弟、妹すら思い出してしまうほどのあどけなさである。
(どーしよ)
束の間そうして敬吾の髪を撫でていたが。
切迫した挙句、逸はとりあえず風呂場に向かうことにした。
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