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立ち位置 4

ドライヤーの風に、絹糸もかくやという仕上がりになった敬吾の髪がこれでもかと揺れている。 乾かし終えて風が止むと、櫛も通さないのに一本残らずすとんと落ちた。 「うーわあ、さらっさらーー」 「……さらさら過ぎて痒いんだけど……」 背後にいた逸が敬吾の正面に回り込み、満足げに髪を撫でまくる。 その度しゃらしゃらと軽い音を立てながら髪が揺れて、普段とは違いすぎる感覚に敬吾は目を顰めていた。 「すげー、鏡みたいですよ、天使の輪が」 「って言うか髪伸びたよな、絶対」 うっとおしそうに敬吾が頭を振ると、それを抱き寄せ逸が頬をつける。 敬吾はぐっと息を呑んだ。 「良いにおい」 「………………」 「……でもこれはもはや敬吾さんの髪ではない……」 「お前ぶち殺すぞ」 「あはは、すみません。やっぱいつもの敬吾さんのが好きみたいです」 「てめーー……」 困ったように笑う逸の額をぺんと張ってやってから、敬吾は立ち上がりベッドの布団を剥いで腰掛ける。 やはりうっとうしくて何度も掻き上げいたちごっこを続けるが、それよりも僅かに残っている酔いが容赦なく眠気を呼んでいる。 明日の朝もう一度洗うことにしよう。 「寝るっ」 「はーい」 敬吾がベッドサイドの照明を点けると、逸がシーリングライトを消す。 逸が敬吾を抱き込みながら布団にもぐり込み、照明を絞った。 それはもう流れるほど自然な当然のやり取りで、体が勝手に動くようになっている。 これもまたいつも通り逸の肩に頭を預けて抱きしめられながら、敬吾は小さく呼吸を逃した。 本当に、楽だ。 全てが自分のために誂えられたように、心と体もしっくりと収まってしまう。 どこにも力が入らなくて、温かい。 しかしそちらは男の頭が乗っていて重くはないのかーーと見上げてみると、逸の呼吸は既に半ば寝息になっていた。 敬吾の髪に顔をすり寄せながら、それが更にゆっくりと落ち着いていく。 ふと笑ってしまって、敬吾も目を閉じた。

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