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褒めて伸ばして 10

「ダぁメですってば!!お酒はダメーー!!!」 「なーんーでーだーよーどう考えてもビールだろこれ!」 逸が仕込んでいた鶏のトマト煮はとろりとよく煮込まれていて、胡椒とにんにくが効いていた。 食事は逸を待っておこうと思ったのだが小腹が減ってしまい、一口食べてこれはビールだろうと冷蔵庫を開けたところに逸が帰ってきてこの顛末である。 一つの缶を四本の手で覆い引っ張り合って、そろそろ温くなってしまいそうだ。 「俺エッチ我慢してんですから敬吾さんもお酒くらい我慢して!」 「意味が分かんねーよ!!」 「今日敬吾さんに飲まれたら俺が死ぬ!!」 「はぁ?」 「敬吾さん酔うと甘えん坊になるからー!」 「なんねえし、なったとこでなんなんだよ!」 「可愛いからダメだっつってんでしょ!!」 眉根を寄せ、怪訝そうに敬吾が黙ると逸は追撃した。 「我慢できなくなる!!」 「ーーーーーー」 敬吾の顔がぽかんと放心したようになると、逸はその顔を一所懸命に見つめた。 ーーー赤くなれ。 そして、許しをくれ。 だが、その願いも虚しく敬吾はどこぞのマフィアのようににやりと笑う。 「ーーまあ、そうじゃなきゃ『待て』ではないわな」 「ーーーーーーー」 「ご褒美も待った甲斐なくなるしなあ」 「ーーーーちょ…………」 てん、てんと逸の胸を指先でつつきながら、敬吾は実に楽しげだった。 逸の方はさらさらと色を失っていく。 そうして敬吾は力の抜けた逸の手からビールを奪い、冷蔵庫に戻したーーが。 別の冷えた缶を取り出して気持ちよく開けた。 「ーーまあ、我慢できないならそれでも良いんじゃね?好きな方選べよ」 「ーーーー………!!!!!」 大きく缶を呷り、振り返った敬吾に不敵に微笑まれて、逸は項垂れた。 そしてーーーーー拳を固めた。

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