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褒めて伸ばして 11

逸が危惧した通り、敬吾は美味そうに酒を飲み、順調に酔っ払った。 意識が濁るほどではないが機嫌良さそうに、やはり危惧した通り逸に絡んでいる。 と言っても、犬猫よろしく頭を撫でくってみたり頬や首を撫でてみたり、にやにやともにこにこともつかない表情で逸を眺めている程度なのだがーー ーーわざとやっているのではなかろうかと、逸としては穿った見方をしてしまう。 「敬吾さん、酔っ払ってますねえ」 「そうか?」 「早めに寝たほうがいいですよ、今日はシャワーだけにして下さいね」 「なんか寝させようとしてねーか?」 「そんなことないですよ」 「ふうん」 敬吾はまた不敵に笑って半眼に逸を眺めた。 夜鷹よろしく、品定めするような据わった瞳で。 一瞬の後、逸の頭の奥深くで、火花が散ったようだった。 敬吾の頭を腕で掻き寄せ、その背にあるソファに強く押し付けながら唇を貪る。 敬吾の頬が熱いのは酒のせいだろうかーー 「ん……っん、」 強く舌を絡ませ、咥内を嬲って追わせた舌を甘噛みしてやる。 敬吾が激しく呼吸を乱すと、それすら奪うように更に激しく口付けた。 敬吾が縋るように逸の背中を掴み、呼吸はもう溺れてでもいるようだ。 自分の中心が一気に熱くなっていくのを感じると、逸は敬吾に呼吸を許すように何度も小さく口付けながら僅かに顔を離す。 蕩け始めている敬吾の表情が、嗜虐にも似た気持ちにさせる。 だがその顔は、弛緩しているのはそのままにやはり不遜に、唇の端を噛んで笑った。 「ーーーするのか?」 「…………………」 敬吾が、自分の右足を挟むように位置している逸の股間をちらりと見やる。 どこまでも面白がっているようだった。 逸は無表情のまま、生意気な子供のような敬吾の顔を見返す。 「しませんよ」 その、冷たくも燃えているような視線に射抜かれて敬吾がややたじろぐ。 また逸が唇を塞ぐと嘘のように毒気が消え、敬吾は口づけに浸った。 それは見ずとも逸にも伝わってきて、このまま抱いたらさぞや素直に艶かしく乱れてくれるのだろうなと思うのだがーー ーー敬吾の思う通りには、してやらない。 唾液が溢れてしまうほど濃く執拗に口付けながら、逸は膝を進めた。 敬吾の脛に強く股間が当たり、敬吾は思わず逸の背中を握る手に力を込める。 それは知らないふりをし、逸はそのまま強く擦り付けた。 敬吾が足を引けばそれより強引に押し付けて、辱めるように腰を揺らす。 犬が優位を誇示するように。 衣擦れの音がいつしか湿り始める。 敬吾が一層細く悲痛に呼吸と声を漏らすが、それを掻き消すほど逸の呼吸は荒ぶっていた。 ただ敬吾を快楽の道具にしているようなその状況が、いやに現を遠ざける。 敬吾が肩を押すが更に強く頭を抱き込んでやり、空いた手で右膝を引き寄せた。 更に強くなった圧迫と摩擦、溺れるようなキス、狼狽えている敬吾の喘ぎ、全てが渦巻いて混沌となっている。 すっかり仰け反ってしまってソファの座面に背中が着きそうな敬吾を、更に押しつぶすように口付けながら逸は鋭く呼吸を漏らし腰を突き上げた。 激しい快感の余韻を味わうように腰を揺らすと、未だ唇を塞がれたまま敬吾が瞳を潤ませる。 信じられなかった。 その間に、激しかった口づけがゆるゆると甘くなっていき、逸は二度三度啄んでから敬吾の唇を解放する。 とろりと弛んだ瞳で伺うと、敬吾は愕然とした顔を泣き出しそうに震えさせていた。 小さく噴き出すように、冷たくも見えるような脱力した表情で逸が笑う。 「ーー出ちゃった」 「……………っ!!」 「んん……」 敬吾の肩に頭を預け、逸がまた敬吾の脛に腰を寄せた。 明らかな濡れた音がし、敬吾がびくりと肩を跳ねさせる。 逸は、久しぶりに敬吾の体で発散したという快感に酔っていた。 「すんごい気持ちよかった……」 「っな何言ってーーー変態すぎるだろお前………っ!!」 「ふふ、そうですね………………」 敬吾の罵倒などどうでも良さそうに、余裕過多に笑ってまた逸は敬吾にキスをした。 先程までのような激しさはないが深く耽美に絡め取られ、敬吾は本格的に泣きそうになる。 更には逸の手が敬吾の股間を撫でた。 「んんー!!」 「あれー、勃ってないか」 「なんなんだよお前ぇ!!!」 「敬吾さんのも抜いてあげようかなと思って」 「いらねえよバカ!!ほんと気持ち悪いなお前!!!」 「ほんとにいらない?こっちは?」 「うわぁ!!!」 腿を大きく割り開かれ、床との接地面に指を捩じ込まれて敬吾が仰け反る。それは逸を助ける形になってしまい、指が一気に谷間を押し通った。 「ここ、寂しくない?」 「んぁ!!っばかやめろっ」 「俺なんてチンコ擦ってればいいですけど敬吾さんはそうもいかないでしょ、どうしてるんですか?自分でしてる?」 「っうるせえな何もしてねえよ…………っあっ、……!!!」 堪えきれず敬吾が漏らした声に、逸が満足げに笑う。 布越しに引っ掻かれて、必死に体重を掛け押しのけようとするが腰が砕けて上手くいかない。 「ほらこれ中に欲しくないですか、指だけならセックスじゃないでしょ?」 「っ、…………、っ………!!!!!」 「ーー少し入れますよ」 「っーーーー………!!!」 「ああほら凄い痙攣してる」 くすくすと笑われて、敬吾は文字通り顔から火を噴くようだった。 赤く熱い顔を、伸し掛かってくる逸の胸に埋めて必死で唇を噛む。 まどろっこしいのに妙に引っかかる繊維の感触が、刺激が強くて堪らなかった。 居た堪れなくて泣きたくなる。 「やめろってばぁ……………!!」 「敬吾さん、足開いてきてますよ」 「ーーーーー!!?」 「ーーおねだりしてくれたら、いかせてあげるのにな……」 高慢な口調でそう囁かれ、敬吾は顰めきった目をそれでも見開いた。 ーー欲しくないわけが、ないのだ。 だからこそ気合を入れて逸の肩を押しやる。 腕が震えるほど頑なに押されて、逸もその様子に圧された。 羞恥も快感も平らに均した表情で逸を見上げ、呼吸は御せないながらも、敬吾は少々粗暴に微笑む。 「ーーお前がしたいなら、しろよ」 「ーーーーーー」 「俺のせいにして、今するのもご褒美も総取りしたいっつーのは随分…………勝手が過ぎるな」 逸の背中はひやりと冷め、敬吾が更に楽しそうに笑みを深くする。 ーーこの人は、もどかしい快感に屈するよりも自分を窘めからかう方を取った。 自分の浅はかな目論見も、見透かされていた。 恐怖にも似た焦燥に、逸がごくりと喉を鳴らす。 敬吾は満足そうにそれを眺めていた。 そしてその指先が、淫靡に自分の鼠径部をなぞっていく。 「ーー言っとくけど、俺はしたいぞ?けど、決めるのはお前だよ」 「ーーーーーーーーー」 ーーああ、勝てない…………。 嗜虐的に陶酔したような敬吾の微笑みに、 逸は敗走した。

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