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褒めて伸ばして 12

「今日も一緒に寝るかー?」 「寝ませんよ!」 「ふーん…………」 敬吾の部屋の玄関に二人は立っていた。 呆れと苛立ちと驚愕が入り混じった表情で、逸はきっと敬吾を振り返る。 「……なんですかその顔は」 「なんだよその顔って」 「そんな寂しそうな顔してもダメっ!」 「してねーよ」 敬吾の無表情はまるでスクリーンだ。 素直でない割に正直な内面が、フラットな表情に鮮明に映る。 ーーと、逸は思っている。 「ぎゅってして?って思ってる顔してます」 「断じてしてねえ」 敬吾はやはり無表情で言い放ったがまたにやりと笑った。 「仮に思ってたらどうする?」 「ーーーーーーー、」 言葉も表情も失った逸に、敬吾は弾けるように爆笑する。 「……………もういいです、敬吾さんの意地悪。ばーかばーか」 「あっはっはっ、ばーかってお前、腹いてえ……」 半ば前かがみになって腹を抱えていた敬吾に、逸の影が落ちた。 はたと見上げた敬吾の顎を、逸の手が捕まえる。 「ーーーーーー、」 しっとりと食まれた唇が離れ、敬吾の顔は僅かに上気していた。 その顔を淫らに歪ませる妄想が、逸の脳裏に迸る。 それを追う逸の視線が恐ろしいほど欲情していて、敬吾はさすがに肝が冷える思いがした。 「ーーーーー来週」 「えっ!?」 低く抑えられた声が掠れていて、敬吾の背中をざわりと撫でる。 「……………覚悟しといてくださいよ」 「ーーーーーーーー」 固まってしまった敬吾の唇を撫でると、逸が部屋を出る。 数秒間そうして固まっていた後、敬吾はふと我に返ってサムターンを倒し、そして少し考えて、ドアガードも起こしてその場にへたり込んだ。

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