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褒めて伸ばして 28
「長いのこの辺かなー……」
逸が敬吾の髪をブロック分けしている間、敬吾は死んだような目で紙袋を開いていた。
ーーストライプのブラウス。
ーーややタイトなシルエットのスカート。
ーー黒のストッキング。
「黒のストッキング……………」
「敬吾さんは黒です」
「お前ほんとは普通に女好きなんじゃねえの?だいぶあざといぞこれ……」
「いや女の人が狙ってやってたらかなり嫌ですよ」
「………………」
ーーブラジャー。
「うっ…………」
ーー更に、ブラジャー?
「なにこれ……」
「え、知りません?貼るやつ」
「いや知ってるけど、普通のも……いや普通のがあんのもおかしいけどなんでこれもあるんだ……」
「ちょっと盛れるらしいですよ、こうガッ!と寄せて重ねると」
「盛る必要がどこにあんの?お前ほんとストレートだろ」
「違いますって、敬吾さんが頑張って女装してる感じがいいんでしょ!まあさすがにすげぇ重ねられてたら冷めるんで一個ですけどー」
「へえ………。」
ーーパンツ。
「ぱんつ……………」
「一応メンズですよ?」
「余計問題だわ!!どこに需要があって供給されてんだこんなもん!」
「意外とノンケの人が買うらしいです」
「きがくるっとる」
「敬吾さん落ち着いて」
ーー箱。
「なにこれ」
「パンプスですけど」
「はぁ?外なんか出ねえだろ!!」
「何言ってんだかこの人は!!!」
「えっ出んの!!?」
「出ませんよ!敬吾さんが女装すんのにハイヒール履かねえでどーすんですか!!!」
「えっなにその熱量………」
「俺敬吾さんの足めっちゃ好きなの知らないんですか!!?」
「知るかバーーカ!!!」
「ほんとはスリスリしたいんですけどさすがに引かれるかなって思って我慢してたんですー!今日はしますからね!!」
「とっくに十分引いてんだよ!!」
「えーもう好きなだけ引いてくださいっ」
「開き直りやがった…………」
袋の中身は、それで全てだった。
「若いのにずいぶん歪んでんなぁおめーは………」
「歪めたの敬吾さんですよ?」
「馬鹿言うな」
「前髪ちょっといじりますよー」
ドライヤーの風がまともに当たり、敬吾が目を閉じているうち逸はその前髪を器用に整える。
敬吾が目を開いた時には、それはそれはあざとい位置で前髪が別れ、流れていた。
「うーーーーーわっきもちわる……」
「可愛いですよ」
「感想を述べるな頼むから」
敬吾が項垂れると逸がその間前髪をワックスで固める。
顔の横にさらさらと落ちてくる長い髪が一層悲壮感を呼んでいたたまれない。
「敬吾さん」
呼ばわれて敬吾が顔を上げると。
逸がとろけそうに笑っていた。
「俺、出てますから。着終わったら呼んで下さいね」
「ーーーーーーー」
ーーそのために前髪を分けていたかのように額にキスをして、逸は出ていく。
敬吾は、中学生さながら赤くなってしまっていた。
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