129 / 280
褒めて伸ばして 27
微かなシャワーの音が途切れる。
では皿を洗ってしまうかーーと敬吾が立ち上がり、シンクの前で腕をまくると逸が出てきた。
そのままシンクの方へ来て、水でも飲むかと思えば当然のように敬吾を抱き竦める。
「うお!」
「敬吾さん」
「いや…………っ待てお前これ洗っ、」
「また待て?」
「!」
逸の口調は穏やかだがまるで責められているようで、敬吾はぐっと言葉を飲んだ。
ーーのは、腰に当たる熱のせいでもある。
「敬吾さん…………」
この人を抱ける。
逸の頭はその歓喜で破裂しそうだった。
その圧力を逃がすためのような呼吸が駆け足に敬吾の首すじを擽る。
「岩井っ、もー……、」
「……………そうですね」
ひとつキスをして、逸は素直に腕を解いた。
そのまま敬吾に自分の方を向かせる。
「お着替えおねがいしますっ」
「…………あーーー」
ーー忘れているわけがなかったか。
敬吾ががっくりと俯くと、それを覗き込むように顔を傾げて逸はにこにこと笑う。
「けーーごさんっ」
「はい…………。」
「髪は俺がやりますね」
「……………髪?」
「エクステ」
「………………」
ーー服だけじゃないのか……。
それはひとまず許容することにする。
「被るやつじゃなくて?」
「敬吾さんの髪全部隠すのやですもん」
「……………」
「服持ってきますね。敬吾さんシャワーは?俺もうーー」
「いやいや浴びる浴びる!!」
「んー、はい」
今度は寂しげに眉を下げる逸の手を、敬吾はぺっぺと振り払って風呂場へ向かった。
ともだちにシェアしよう!